野球のダグアウトはなぜ低い?観客の視界・名前の由来とベンチとの違い
野球場のダグアウトがグラウンドより低く作られる最大の理由は、後方の観客からフィールドを見やすくしながら、選手の待機場所を試合区域の近くに確保するためです。
床面を下げれば、ベンチで座っている選手や立っているコーチが観客の視線に入りにくくなります。客席をフィールドの近くまで設けやすくなることも、大規模な球場では重要な利点です。
ただし、すべてのダグアウトが低いわけではありません。少年野球場や地域の運動場では、グラウンドと同じ高さにベンチを置き、フェンスや屋根で囲った形式も広く使われています。
最初に押さえたいポイント
- 低くする主な目的は、観客の視界と客席配置を両立させること
- 選手席をフィールドの近くに置きながら、プレー区域と分けられる
- 公式規則に「必ず地面より低くする」という決まりはない
- ダグアウトとベンチは、厳密に区別されないことも多い
- ホームチームが一塁側か三塁側かは球場によって異なる
1. 低くする最大の理由は観客の視界
内野席の前に選手用ベンチを設けると、選手や監督が後方の観客とフィールドの間に入ります。
ベンチがグラウンドと同じ高さにあり、選手が立ち上がった場合、後方席からホームベース周辺が見えにくくなる可能性があります。特に打者、捕手、球審が集まる打席付近は、試合を見るうえで重要な場所です。
そこで、選手席の床面を下げます。選手の頭や肩の位置が低くなり、観客からフィールドへ向かう視線を遮りにくくなる仕組みです。
地面と同じ高さのベンチ
観客の目 ─── 選手の体 × ─── ホームベース
↑
視線を遮りやすい
掘り下げたダグアウト
観客の目 ───────────── ホームベース
選手
───────
低い床面
野球場設備を扱うBeacon Athleticsのダグアウト設計資料でも、メジャー級の球場で選手席を低くする理由として、客席数と観客の見やすさを最大化しやすいことが挙げられています。
つまり、単に「選手を穴の中へ入れる」のではありません。観客席、選手席、フィールドを限られた空間に無理なく配置するための設計です。
2. ダグアウトは誰が使う場所なのか
ダグアウトは、守備や走塁に参加していない選手、監督、コーチ、交代選手などが試合中に待機する区画です。
通常はファウルゾーン側にあり、ホームベースと一塁、またはホームベースと三塁の間に設けられます。両チームに1か所ずつ用意され、攻撃中の選手や守備に就いていない選手が利用します。
2026年版のMLB公式野球規則では、選手用ベンチについて次の条件が定められています。
| 項目 | MLB公式規則の内容 |
|---|---|
| 設置数 | ホームチーム用とビジターチーム用を1か所ずつ設ける |
| ベースラインとの距離 | 25フィート以上離す |
| 屋根 | 設ける |
| 背面と両端 | 囲う |
| 床面の高さ | 具体的な指定はない |
| 掘り下げる深さ | 具体的な指定はない |
25フィートは約7.62メートルです。選手席を打球や送球が飛び交う区域から一定の距離だけ離し、屋根や囲いで保護する考え方が示されています。
一方、「グラウンドより何センチ低くする」といった規定はありません。低く作られていることは典型的な特徴ですが、ダグアウトと呼ぶための絶対条件ではないのです。
3. 床面を下げることで得られるほかの利点
低い構造には、観客の視界以外にもいくつかの利点があります。
| 利点 | どのように役立つか |
|---|---|
| 客席を近くに設けやすい | 選手席の後方や上部まで座席を配置しやすい |
| 待機区域を分けやすい | 段差や前面の壁がフィールドとの境界になる |
| 屋根を低く抑えやすい | 後方席からの視線を遮りにくい |
| 選手の移動距離を短くできる | 代打、代走、守備交代で素早くフィールドへ出られる |
| 地下設備と接続しやすい | 球場によってはクラブハウスや室内練習場へつながる |
段差や前面の壁があれば、バット、ヘルメット、飲料用容器などがフィールドへ出にくくなります。屋根、側面、背面の囲いと組み合わせることで、雨や日差し、飛来するボールから選手を守りやすくなる面もあります。
ただし、低いこと自体が安全性を保証するわけではありません。前面が大きく開いているダグアウトには、ファウルボールや悪送球が入る可能性があります。
安全性を支えているのは、床の低さだけではなく、次のような設備です。
- ベースラインからの距離
- 前面の壁や手すり
- 屋根
- 背面と側面の囲い
- フェンスや防球ネット
- 球場ごとに定められた利用ルール
「ファウルボールを避けるためだけに掘り下げている」と説明すると、目的を単純化しすぎます。観客の見やすさと客席配置が中心にあり、安全設備としての効果も組み合わさっていると考えるのが適切です。
4. 低い構造にはデメリットもある
床面を掘り下げるには、地面と同じ高さに作る場合より多くの工事が必要です。
特に問題になりやすいのが雨水です。周囲より低い場所には水が流れ込みやすいため、排水口、側溝、床の勾配などを適切に設計しなければなりません。排水設備が詰まると、ダグアウト内へ水がたまる可能性があります。
そのほか、次のような課題があります。
- 掘削や基礎工事の費用がかかる
- 防水・排水設備が必要になる
- 階段での移動が増える
- 用具を運びにくくなる場合がある
- 車いす利用者などの移動経路を別に確保する必要がある
- 改修や増築が難しくなることがある
プロ球場のように大きな客席がある施設では、視界や座席数を確保する利点が費用を上回りやすくなります。
一方、観客席が小さい地域球場では、低くする必要性があまりありません。利用人数や建設費、維持管理のしやすさを考え、地面と同じ高さに作るほうが合理的な場合もあります。
5. dugoutの語源は「掘って作られた場所」
英語の dugout は、dig outと関係する言葉です。
| 英語 | 意味 |
|---|---|
| dig | 掘る |
| dug | digの過去形・過去分詞 |
| out | 外へ、外に出す |
| dig out | 掘り出す、掘って作る |
| dugout | 掘って作られた場所や物 |
Merriam-Websterのdugoutの定義には、丸太をくり抜いた舟、地面や斜面を掘った避難場所、野球場に面した低い選手席などの意味が掲載されています。
野球専用に作られた新語ではなく、もともと「掘って作ったもの」を表していた言葉が、野球場の選手席にも使われるようになりました。
Online Etymology Dictionaryの語源解説では、野球の意味で使われた記録は1914年までさかのぼるとされています。それ以前には、崖や土手の側面を掘って作る簡易的な避難場所を表す言葉として使われていました。
ただし、現在の形を誰か一人が発明し、その瞬間に名称が生まれたと確認できるわけではありません。観客席が拡大し、選手席へ屋根や壁が設けられる過程で、低い待機場所を表す名称として定着したと考えられます。
現在は地面と同じ高さの施設もdugoutと呼ばれます。語源と現在の用法が完全に一致しないのは、珍しいことではありません。
6. 「ダグアウト」と「ダッグアウト」はどちらが正しい?
どちらも同じ英単語のdugoutを表しており、意味の違いはありません。
英語の発音では、dugの末尾にgの子音があります。その音を意識して「ダッグアウト」と書く場合があります。一方、日本では促音を省いた「ダグアウト」も広く定着しています。
| 表記 | 位置づけ |
|---|---|
| ダグアウト | 日本語で広く使われる表記 |
| ダッグアウト | 原語の子音を意識した表記 |
| dugout | 英語表記 |
| dug-out | ハイフンを入れた表記 |
日本語の文章では「ダグアウト」が比較的読みやすいものの、「ダッグアウト」を誤りとする必要はありません。
大切なのは、同じ文章の中で表記を統一することです。競技規則や球団、媒体によって表記が異なる場合もありますが、指している施設は基本的に同じです。
7. ダグアウトとベンチは何が違う?
日常の野球用語では、ダグアウトとベンチは同じ待機場所を指すことがあります。
ただし、本来の語が表す範囲には少し違いがあります。
- ベンチ:選手が座る長椅子、控え選手、選手の待機場所
- ダグアウト:長椅子に加え、屋根、壁、手すり、階段などを含む区画全体
「監督がベンチから指示を出した」という場合、長椅子そのものではなく、チームの待機区域を意味しています。「選手がダグアウトへ戻った」という場合は、囲われた区画全体へ戻ったという意味になります。
日本では、次のように区別して説明されることもあります。
| 構造 | 呼び方の例 |
|---|---|
| グラウンドより低い選手席 | ダグアウト |
| グラウンドと同じ高さの選手席 | ベンチ |
しかし、この区別が世界共通の規則になっているわけではありません。
MLB公式規則の用語定義では、「BENCH OR DUGOUT」として、プレーに参加していない選手や交代選手などのために設けられた座席設備をまとめて定義しています。
したがって、次のように考えると分かりやすくなります。
長椅子や控え選手を強調するときは「ベンチ」、屋根や壁を含む待機区画全体を強調するときは「ダグアウト」と呼ぶことが多い。ただし、実際には同じ意味で使われることもある。
8. すべてのダグアウトが低いわけではない
プロ野球中継では、選手が数段の階段を下りてダグアウトへ入る様子がよく映ります。そのため、低くなければダグアウトではないと思われがちです。
しかし、少年野球場、学校のグラウンド、地域の運動場などでは、グラウンドと同じ高さの形式も一般的です。
主な理由は次のとおりです。
- 大規模な客席がなく、視界を遮る問題が小さい
- 掘削工事を省いて建設費を抑えられる
- 排水設備を簡素にできる
- 選手や用具が出入りしやすい
- 多目的グラウンドとして使いやすい
- 将来の改修や移設がしやすい
同じ高さにする場合は、フェンスやネット、屋根、壁によって選手を保護します。
低い形式と同じ高さの形式のどちらが正しいという問題ではありません。球場の規模、観客席の位置、利用者の年齢、予算、維持管理の方法に応じて適切な構造が変わります。
9. ホームチームは一塁側と三塁側のどちらに入る?
ホームチームが一塁側を使う球場は多くありますが、必ず一塁側と決まっているわけではありません。三塁側をホーム用としている球場もあります。
MLB公式規則は、ホーム用とビジター用のベンチを1か所ずつ設けるよう定めていますが、どちらを一塁側にするかまでは指定していません。
使用する側は、次のような条件から決まります。
| 条件 | 選択に影響する理由 |
|---|---|
| クラブハウスの位置 | ロッカー室との移動距離を短くできる |
| 日当たり | 日差しや暑さの影響を受けにくい側を選べる |
| 設備の違い | 映像機器やトレーニング設備に近い側を使える |
| 球場の構造 | 通路や客席との位置関係が異なる |
| 長年の慣例 | 球場やチームが従来の配置を続ける |
| 大会の運用 | 主催者が試合ごとに指定する |
普段は一塁側を使うチームでも、地方球場や中立地の大会では反対側に入ることがあります。
応援するチームの近くに座りたい場合は、「ホームだから一塁側」と決めつけず、球場や大会が公開している座席案内を確認するのが確実です。
10. よくある質問
Q. 地面より低くする一番の理由は何ですか?
後方の観客からフィールドを見やすくし、ダグアウト付近にも客席を配置しやすくするためです。選手席を試合区域の近くに確保しながら、観客の視線を遮りにくくできます。
Q. 選手をファウルボールから守るために低くしているのですか?
安全面にも一定の利点がありますが、それだけが目的ではありません。選手を主に保護するのは、ベースラインからの距離、屋根、壁、手すり、フェンス、ネットなどです。
Q. 低くない場所もダグアウトと呼びますか?
呼びます。公式規則には床面を低くする条件がなく、地面と同じ高さの待機区域にもdugoutという名称が使われます。
Q. ダグアウトとベンチは同じ意味ですか?
同じ待機場所を指すことが多い言葉です。厳密に分けるなら、ベンチは長椅子や控え選手、ダグアウトは屋根や壁を含む区画全体を指しやすいという違いがあります。
Q. 「ダッグアウト」と書くのは間違いですか?
間違いではありません。「ダグアウト」と「ダッグアウト」は、どちらもdugoutのカタカナ表記です。
Q. ダグアウトの深さは決められていますか?
少なくともMLB公式規則には、床を何センチ下げるといった指定はありません。具体的な深さは、球場の設計や客席の高さなどによって異なります。
Q. ホームチームは必ず一塁側ですか?
必ず一塁側ではありません。三塁側を使用する球場もあり、大会や会場によって配置が変わる場合もあります。
11. まとめ
ダグアウトをグラウンドより低くする最大の設計上の利点は、観客の視界を確保し、選手席の後方まで客席を配置しやすくすることです。
床面を下げれば、選手や監督が観客とフィールドの間に入りにくくなります。選手席をプレー区域の近くに置きながら、段差や壁によって区域を分けやすくなる利点もあります。
一方、公式規則はダグアウトを必ず低くするよう求めていません。定められているのは、両チームのベンチを設けること、ベースラインから一定の距離を取ること、屋根と囲いを設けることなどです。
要点を整理すると、次のようになります。
- 低くする主な目的は、観客の視界と客席配置の改善
- 安全性は屋根、壁、距離、ネットなどを含めて確保する
- 低いダグアウトには排水や建設費の課題もある
- 小規模な球場では地面と同じ高さの形式も合理的
- dugoutは「掘って作った場所」に由来する
- ダグアウトとダッグアウトは同じ意味
- ベンチとの間に世界共通の厳密な区別はない
- ホームチームが一塁側か三塁側かは球場によって異なる
球場を訪れた際は、選手席の床だけでなく、その後方にある客席からホームベースへ向かう視線にも注目してみてください。低い構造が、選手の待機場所と観客の見やすさを両立させていることが分かります。