コオロギの鳴き声で気温がわかる?15秒で測る計算式と日本での注意点
結論から言うと、一定の種類では、鳴き声の回数から周囲の気温をおおまかに推定できます。暖かくなると、神経や筋肉の働くテンポが速くなり、同じ時間内に鳴く回数が増えるためです。
よく知られている方法では、鳴き声を15秒間数えて計算式に当てはめます。ただし、すべての種類に同じ式が通用するわけではありません。日本で聞こえるエンマコオロギやツヅレサセコオロギに使う場合は、正確な温度計ではなく、観察を楽しむための目安と考える必要があります。
1. 15秒で気温を推定する計算式
15秒間に聞こえたチャープの回数を N とすると、摂氏温度の目安は次の式で求められます。
推定気温(℃)=(N+8)×5÷9
たとえば、15秒間に28回聞こえた場合は、次のように計算します。
(28+8)×5÷9=20
推定気温は約20℃です。
| 15秒間の回数 | 推定気温 |
|---|---|
| 19回 | 約15℃ |
| 28回 | 約20℃ |
| 37回 | 約25℃ |
| 46回 | 約30℃ |
この式は、華氏温度を求める 気温(°F)=15秒間の回数+40 という簡便式を摂氏へ換算したものです。米国海洋大気庁(NOAA)でも、鳴く回数と気温の関係や数え方が紹介されています。
計算結果は小数点以下まで正確とは限りません。
23.7℃と出ても、「およそ24℃」程度の目安として扱います。種類や周囲の環境が違えば、数℃以上ずれることもあります。
2. 鳴き声を正しく数える方法
測定で最も迷いやすいのが、「何を1回と数えるか」です。
コオロギの音は、細かな一音が集まって一まとまりになっています。スノーイ・ツリークリケットのように、「チリッ……チリッ……」と区切りが分かる場合は、区切られた一まとまりを1回として数えます。細かな振動音を一つずつ数えるわけではありません。
チリッ …… チリッ …… チリッ
1回 2回 3回
日本のコオロギには、「コロコロコロ」と長く続けて鳴く種類もいます。区切りが判断できない音では、15秒式を無理に使わない方がよいでしょう。
測定手順は次のとおりです。
- 一方向から聞こえる一匹の鳴き声を選ぶ
- 15秒間に聞こえた一まとまりの回数を数える
- 30秒ほど間を空けて、同じ測定を5回行う
- 5回の平均を計算する
- 平均回数を計算式へ入れる
- 虫の近くに置いた温度計と比較する
5回の結果が 27回、29回、28回、26回、30回 なら、平均は次のようになります。
(27+29+28+26+30)÷5=28回
この場合の推定値は約20℃です。1回だけ測るよりも平均を取った方が、数え間違いや一時的な鳴き方の変化を小さくできます。
スマートフォンで録音しておくと、数え直しができます。複数の虫が鳴いている場所では、録音した音をイヤホンで聞き、一方向から聞こえる声だけを追うと測りやすくなります。
3. 暖かいほど鳴く回数が増える理由
コオロギは、周囲の温度の影響を受けて体温が変わる外温性の動物です。人間のように体温をほぼ一定に保つのではなく、気温が変わると神経や筋肉の働き方も変化します。
活動できる温度範囲では、暖かくなるほど次の反応が速くなる傾向があります。
- 羽を動かす筋肉の収縮と弛緩
- 発音のリズムを作る神経活動
- 鳴き声と次の鳴き声の間隔
- 求愛や移動などの活動
その結果、同じ15秒でも鳴く回数が増えます。
気温が上がる
↓
コオロギの体温も上がる
↓
神経と筋肉の動作が速くなる
↓
鳴き声の間隔が短くなる
↓
一定時間内の回数が増える
ただし、「暑いほど際限なく速くなる」という意味ではありません。低温では動きが鈍くなり、鳴かなくなることがあります。反対に、極端に暑い環境では活動を控えたり、日陰へ移動したりするため、単純な比例関係から外れます。
4. 鳴いているのは主にオス
秋の夜に聞こえる規則的な声は、主にオスが出しています。代表的な目的は、メスを呼ぶことです。
コオロギは口や喉で声を出しているわけではありません。左右の前翅にある、やすり状の部分と摩擦片をこすり合わせて音を作ります。前翅が振動し、音を響かせる部分が共鳴することで、人間にも聞こえる大きさになります。
東京大学を中心とする無脊椎動物脳プラットフォームでは、オスが前翅の摩擦器をこすり合わせる仕組みと、鳴き声の単位が説明されています。
オスは状況に応じて鳴き方も変えます。
| 鳴き方 | 主な役割 |
|---|---|
| 誘引歌 | 離れたメスを呼ぶ |
| 求愛歌 | 近くに来たメスへ働きかける |
| 闘争歌 | ほかのオスを威嚇する |
気温の測定には、同じ調子で繰り返される誘引歌が向いています。途中で鳴き方が急に変わった場合は、求愛や争いなど、温度以外の影響が加わった可能性があります。
5. ドルベアの法則とは
鳴く回数と気温の関係は、米国の物理学者エイモス・ドルベアが1897年に発表した短い論文「The Cricket as a Thermometer」で広く知られるようになりました。この関係は、日本語でドルベアの法則またはドールベアの法則と呼ばれます。
ドルベアの原論文では、1分間の鳴く回数と華氏温度を結び付ける関係式が示されました。現在よく使われる15秒式は、屋外でも覚えやすく数えやすいように簡略化されたものです。
ただし、自然の生物を使う以上、計算式どおりに毎回同じ値になるわけではありません。
1966年にスノーイ・ツリークリケットを野外で調べた研究では、9.5~23.5℃の範囲で758回の測定が行われ、平均の鳴く回数は気温とともに増加しました。一方、同じ温度でも個体の値にはばらつきがあり、平均との差は条件によって3~32%に達しています。Annals of the Entomological Society of America掲載論文は、鳴く回数が温度と関係する一方で、環境や個体差を無視できないことも示しています。
つまり、ドルベアの法則は「コオロギなら必ず正確な気温が出る魔法の式」ではなく、特定の種類で見られる温度と発音テンポの関係を、簡単な計算にしたものです。
6. 日本のコオロギにも使える?
日本でよく聞かれるエンマコオロギ、ツヅレサセコオロギ、ミツカドコオロギなどに、同じ計算式をそのまま使えるとは限りません。
種類が違えば、次の特徴も変わります。
- 一つの鳴き声に含まれる音の数
- 鳴き声と鳴き声の間隔
- 温度に対する変化の大きさ
- 活発に鳴く温度範囲
- 音の区切りやすさ
- 求愛歌や闘争歌のパターン
特に、日本で「コロコロリー」「リーリー」と連続して聞こえる音は、北米のツリークリケットのようにチャープを数えにくい場合があります。虫の種類が分からず、音の区切りも判断できない場合は、計算結果を気温として断定できません。
日本で試すなら、既存の式が当たるかどうかだけでなく、同じ場所で同じ音を繰り返し測り、実測気温との関係を自分で確かめる方法が適しています。
たとえば、10日分のデータから「実測気温が1℃高い日に、15秒間の回数が平均で何回増えたか」を調べれば、その場所と種類に合った独自の傾向を見つけられます。
7. 計算結果がずれる主な原因
鳴く回数は温度だけで決まるわけではありません。値が合わないときは、測定方法の失敗と決めつけず、ほかの条件を確認します。
| 原因 | 起こりやすい問題 | 対策 |
|---|---|---|
| 種類の違い | 計算式の関係が合わない | 同じ音色の個体だけを比べる |
| 複数の個体 | 声が重なり、多く数える | 一方向の声に絞る |
| 鳴き方の変化 | 求愛歌や闘争歌が混ざる | 一定した誘引歌だけを測る |
| 測定位置 | 虫の周囲と温度計で温度が違う | 虫に近い日陰で測る |
| 急な温度変化 | 空気と虫の体温に差が出る | 温度が安定した時間を選ぶ |
| 風や雨 | 音を聞き落とす | 穏やかな日に録音する |
| 個体差 | 年齢や状態でテンポが変わる | 複数回・複数日測る |
気象台の値と庭の測定値が違うのは珍しくありません。草むら、土の上、石垣、木の枝、建物の近くでは、同じ地域でも温度が異なります。
また、温度計を手で握ったまま使ったり、直射日光が当たる地面へ置いたりすると、虫のいる場所より高い値が出ることがあります。温度計は日陰に置き、表示が落ち着いてから読みます。
8. 自由研究で確かめる方法
鳴き声と気温の観察は、生物だけでなく、平均、グラフ、誤差、仮説の立て方まで学べる題材です。スマートフォンの録音機能と温度計があれば、家庭でも繰り返し測定できます。
最初に予想を一文で決めます。
同じ場所で同じ種類の鳴き声を測ると、気温が高いほど15秒間の回数が増える。
次に、なるべく条件をそろえて記録します。
- 毎日ほぼ同じ時刻に測る
- 同じ場所と同じ音色を選ぶ
- 一日5回測って平均する
- 温度計を同じ位置に置く
- 風、雨、ほかの虫の声も記録する
- 録音ファイルへ日付と時刻を付ける
教育出版の小学校理科資料でも、暑いときと涼しいときに15秒間の鳴く回数を調べ、気温との関係を比べる観察例が示されています。
記録表は、記入例と空欄の表を分けて作ると整理しやすくなります。
| 日時 | 実測気温 | 1回目 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 | 平均 | 推定気温 | 天候・気づき |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 9月5日 20時 | 24.0℃ | 34 | 35 | 33 | 34 | 36 | 34.4 | 約23.6℃ | 晴れ、風弱い |
横軸を実測気温、縦軸を平均回数にした散布図を作ると、温度が高いほど回数が増えているかを確認できます。
結果が式と合わなくても失敗ではありません。次のように考察できます。
- 日本の種類には式が合わなかった可能性
- 別の個体の声が混ざった可能性
- 温度計と虫の位置が離れていた影響
- 夜の途中で風や湿度が変わった影響
- 一まとまりの数え方が適切でなかった可能性
「予想と違った理由」をデータから考えることも、観察の大切な成果です。
9. よくある質問
コオロギは何度くらいから鳴きますか?
鳴き始める温度は、種類、地域、季節、個体の状態によって異なります。低温になるほど動きや発音が遅くなり、やがて鳴かなくなる傾向はありますが、すべての種類に共通する一つの温度はありません。
スズムシの鳴き声でも気温を測れますか?
スズムシも周囲の温度によって鳴き方が変化しますが、ドルベアの計算式をそのまま使えるとは限りません。種類ごとに、鳴き声の構造と温度への反応が異なるためです。
何匹も同時に鳴いている場合はどうしますか?
最も近く、一方向から聞こえる一匹に絞ります。声が完全に重なって区別できない場合は、その測定を使わず、場所や時間を変えた方が正確です。
15秒ではなく1分間数えてもよいですか?
数えられます。測定時間が長いほど一時的な変化の影響は小さくなりますが、途中で別の個体が鳴き始める可能性も高まります。同じ条件で比較するなら、すべての測定時間を統一します。
昼と夜で結果は変わりますか?
気温が同じでも、明るさ、活動時間、周囲の個体の状態などが違えば鳴き方が変わる可能性があります。比較するときは、毎日ほぼ同じ時刻に測る方がよいでしょう。
天気予報の代わりになりますか?
なりません。分かる可能性があるのは、その場の現在の温度の目安です。雨や台風、翌日の気温を予測する方法ではありません。熱中症対策や防災判断には、気象機関の観測値と予報を使います。
10. まとめ
一定の種類のコオロギでは、暖かくなるほど鳴く間隔が短くなり、同じ時間内の回数が増えます。15秒間の回数を N とすれば、(N+8)×5÷9 から摂氏温度の目安を計算できます。
ただし、ドルベアの法則はすべての鳴く虫に共通する式ではありません。日本のコオロギは鳴き方や温度への反応が異なるため、計算結果が実際の気温とずれることがあります。
実際に試すときは、区切られた一まとまりを1回として数え、5回以上の平均を取り、虫に近い場所の温度計と比べます。式が当たったかどうかだけでなく、天候、測定位置、種類、個体差まで記録すると、身近な虫の声から生物と環境の関係を読み取れる観察になります。