コオロギ・スズムシの鳴き声はどうやって出る?羽をこする仕組みと種類ごとの違い
コオロギやスズムシは、口から声を出しているわけではありません。成虫のオスが左右の前翅をこすり、翅にある細かな突起を連続して弾くことで音を出しています。
スズムシの「リーン、リーン」という澄んだ音も、コオロギの「コロコロリー」という音も、基本的な発音方法は同じです。ただし、翅の形や動かす速さ、音を出す間隔が種類によって異なるため、それぞれ違った鳴き声に聞こえます。
鳴く主な目的は、離れた場所にいるメスへ自分の存在を知らせることです。オスは状況に応じて、メスを呼ぶ音、近くのメスへ求愛する音、ほかのオスを威嚇する音を使い分けています。
コオロギは後ろ脚を翅にこすって鳴くと思われがちですが、主に使うのは左右の前翅です。
1. コオロギとスズムシは左右の前翅をこすって鳴く
コオロギとスズムシは、どちらもバッタ目に属する昆虫です。見た目や鳴き声は異なりますが、オスの前翅に発音用の構造を持っている点は共通しています。
オスの前翅には、細かな歯が並んだやすり器と、その歯を引っかくこすり器があります。片方の前翅にあるこすり器が、もう片方の前翅にあるやすり器の歯を次々に弾くと、細かな振動が生まれます。
前翅を少し持ち上げる
↓
左右の前翅をすばやく動かす
↓
こすり器が、やすり器の歯を連続して弾く
↓
翅の薄い部分が振動する
↓
振動が増幅され、大きな音として広がる
このように、実際の仕組みは単純な「翅同士の摩擦」だけではありません。細かな歯を規則正しく弾き、そこで生じた振動を翅全体に響かせることで、あの特徴的な音を作っています。
東京大学の無脊椎動物脳プラットフォームでも、オスの前翅にある鑢と摩擦片からなる発音器や、鳴き声を繁殖行動に使うことが説明されています。
2. 小さな体から大きな音が出るのは共鳴するため
やすり器の歯を一つ弾いただけでは、人間にはほとんど聞こえないほど小さな振動しか生まれません。それでも草むらの遠くまで音が届くのは、前翅に共鳴板のような部分があるためです。
コオロギ類の前翅には、「発音鏡」や「ハープ」などと呼ばれる薄い膜状の部分があります。やすり器で作られた細かな振動がこの部分へ伝わると、一定の高さの音が強く響きます。
仕組みは、楽器の音が大きくなる現象に似ています。
| 発音の要素 | 楽器にたとえた役割 |
|---|---|
| やすり器の歯 | 振動を作る弦や音源 |
| こすり器 | 弦を弾くピックや弓 |
| 発音鏡などの薄い翅 | 音を響かせる共鳴板 |
| 翅の開閉 | 音の長さやリズムを決める動き |
スズムシが鈴のような澄んだ音を出せるのも、翅の共鳴しやすい音域がはっきりしているためです。体の中に鈴のような器官が入っているわけではありません。
3. 「リンリン」「コロコロ」と違って聞こえる理由
スズムシとコオロギは似た方法で音を出しますが、すべて同じ音にはなりません。鳴き声の違いは、主に次の要素から生まれます。
- やすり器に並ぶ歯の形や間隔
- 1秒間に歯を弾く回数
- 翅が共鳴しやすい音の高さ
- 一度に翅を動かす長さ
- 鳴く音と休む時間の組み合わせ
- 気温や個体の成熟度
人間には一続きの「リーン」や「コロコロ」と聞こえても、音を細かく見ると、短い振動と休止が繰り返されています。
短い一つの発音単位はシラブル、複数のシラブルがまとまった音はチャープと呼ばれることがあります。種類によって、このシラブルを並べる速さやチャープの長さが異なるため、独自のリズムが生まれます。
なお、「リンリン」「リーン」「コロコロリー」といった表現は、人間が音を言葉に置き換えたオノマトペです。同じ虫の音でも、聞く人や距離、周囲の反響によって表し方が変わることがあります。
4. 鳴くのは基本的に成虫のオス
秋の夜に聞こえる大きな鳴き声を出しているのは、基本的に成虫のオスです。
幼虫には完成した翅がなく、メスの翅にもオスと同じように発達した発音器がありません。そのため、メスや幼虫は、オスのような呼び鳴きをしません。
オスが鳴く最大の目的は、草むらにいるメスへ自分の位置を知らせることです。夜の草むらでは、目で相手を探すよりも、遠くまで届く音を使った方が効率的です。
さらに、鳴き声には種類ごとに特徴的なリズムや音の高さがあります。メスはただ大きな音へ近づくのではなく、同じ種類のオスが出す特徴的な音を手掛かりにしています。
北海道大学の行動実験では、直径1メートルの実験装置で60・70・80デシベルの誘引歌を流し、メスが音源へ近づく行動が調べられました。音が大きい条件ほど、音源付近まで到達するメスが増える結果が得られています。
ただし、メスは常に音の方向へ一直線に進むわけではありません。周囲を探るように動く段階から、音源へ近づく段階へ切り替えながらオスを探します。
5. コオロギは場面によって鳴き方を変える
オスのコオロギは、いつも同じ目的で鳴いているわけではありません。代表的な鳴き方は、次の3種類です。
| 鳴き方 | 主な場面 | 役割 |
|---|---|---|
| 呼び鳴き・誘引歌 | メスが離れた場所にいるとき | 自分の位置を知らせてメスを呼ぶ |
| 求愛鳴き・求愛歌 | メスがすぐ近くにいるとき | 交尾を受け入れてもらう |
| 争い鳴き・闘争歌 | ほかのオスと出会ったとき | 威嚇や勝敗の状態を伝える |
一般的に夜の草むらから繰り返し聞こえるのは、離れたメスを呼ぶための呼び鳴きです。
メスが近づくと、オスはより小さく複雑な求愛鳴きへ切り替えることがあります。また、オス同士が接近したときには、普段より短く鋭い音を出して争います。
呼び方は資料によって異なり、「誘引歌」「呼び歌」「ひとり鳴き」などと表現される場合がありますが、いずれも離れたメスを呼ぶための音を指しています。
6. スズムシやコオロギの種類別の鳴き声
日本には、さまざまな鳴く虫が生息しています。音の表現には個人差がありますが、代表的な聞こえ方を知っておくと、身近な虫を見分ける手掛かりになります。
| 虫の種類 | 鳴き声の表現例 | 聞こえ方の特徴 |
|---|---|---|
| スズムシ | リーン、リーン/リインリンリン | 鈴のように澄んだ高い音 |
| エンマコオロギ | コロコロリー/コロコロコロ | ゆったりした音の最後が伸びる |
| ツヅレサセコオロギ | リーリーリー | ほぼ同じ音を連続して出す |
| ハラオカメコオロギ | リリリリ | 短い音を数回出して休む |
| ミツカドコオロギ | ジジジジ | オカメコオロギ類より鋭く聞こえる |
| カネタタキ | チン、チン、チン | 金属を軽くたたくような音 |
| カンタン | ルルルルル/トゥルルル | 細く滑らかな音が長く続く |
富山市科学博物館の解説では、エンマコオロギを「コロコロリーリー」、ツヅレサセコオロギを「リーリーリー」、オカメコオロギ類を短い音が数回続く鳴き方として紹介しています。
ただし、鳴き声の文字表現だけで種類を断定するのは困難です。気温、距離、周囲の反響、ほかの虫の音が重なることで、聞こえ方は変わります。
種類を調べるときは、次の情報を組み合わせると判断しやすくなります。
- 鳴いていた時期
- 昼と夜のどちらで聞いたか
- 草地、樹上、家の周囲などの場所
- 音が連続しているか、途中で休むか
- 姿や体の大きさ
- 地面と木の上のどちらから聞こえるか
7. コオロギの耳は前脚にある
コオロギやスズムシには、人間のような頭部の耳は見当たりません。それでも音を聞けるのは、左右の前脚に鼓膜器官があるためです。
前脚のすねに近い部分には、空気の振動を受け取る薄い膜があります。外から届いた音によって膜が振動すると、その情報が感覚細胞から神経へ伝えられます。
オスの前翅から音が出る
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空気の振動が草むらへ広がる
↓
メスの左右の前脚にある鼓膜が振動する
↓
音の高さとリズムを神経が受け取る
↓
同じ種類の呼び鳴きなら音源へ近づく
左右の鼓膜器官は体内の気管ともつながっています。外側から鼓膜へ届く音と、気管を通って内側から届く音の違いを利用することで、小さな体でも音の方向を判断できます。
コオロギの体は、前翅が音を出すスピーカー、前脚が音を受け取るマイクのような構成になっているのです。
8. セミやバッタとは音を出す場所が違う
鳴く虫がすべて翅同士をこすっているわけではありません。種類によって、音を作る器官や動かし方が異なります。
| 虫 | 主に使う場所 | 音が出る仕組み |
|---|---|---|
| コオロギ・スズムシ | 左右の前翅 | やすり器とこすり器を使い、翅を共鳴させる |
| セミ | 腹部の発音膜 | 筋肉で膜を繰り返し変形させる |
| 一部のバッタ | 後脚と前翅 | 後脚の突起などを翅へこすりつける |
| カ | 翅 | 飛ぶための羽ばたきが音になる |
コオロギについて「後ろ脚を翅にこすって鳴く」と誤解されやすいのは、一部のバッタの発音方法と混同されるためです。
また、セミも主にオスがメスを呼ぶために鳴きますが、音を作る仕組みはまったく異なります。セミは腹部にある発音膜を筋肉で繰り返し変形させ、腹部の空間で音を響かせています。
京都大学の解説でも、スズムシは翅のやすり器とこすり器を使い、セミは腹部の膜を筋肉で動かすと説明されています。
9. 気温や時間帯で鳴き方が変わる
コオロギやスズムシは変温動物であり、体温が周囲の気温に左右されます。一定の範囲では気温が高いほど筋肉や神経の働きが速くなり、翅を動かすテンポも速くなる傾向があります。
反対に、気温が低くなると鳴く間隔が長くなり、寒すぎるとほとんど鳴かなくなる場合があります。
ただし、鳴き方を変えるのは気温だけではありません。
- 種類
- 成虫になってからの日数
- 翅や筋肉の成熟度
- 個体の大きさや体調
- 周囲にメスや別のオスがいるか
- 明るさや時間帯
- 風や雨
- 飼育環境
「1分間に鳴く回数から気温を計算できる」という話もありますが、有名な計算式は特定の種類を対象にした近似です。日本で聞こえるすべてのコオロギやスズムシに共通する公式ではありません。
鳴き声と気温を自由研究で比べる場合は、同じ種類、同じ場所、同じ時間帯で繰り返し測定する必要があります。
また、スズムシや多くのコオロギ類が夜によく鳴くのは、夜間に活動が活発になるためです。暗い草むらでは視覚より音が相手探しに役立ち、日中より気温や乾燥の負担が小さい場合もあります。
10. 鳴き声を観察するときのポイント
鳴き声は、姿を見つけにくい夜の昆虫を調べる重要な手掛かりです。スマートフォンで録音し、気温や時間帯と一緒に記録すると、日による違いを比較できます。
| 記録する項目 | 記録例 |
|---|---|
| 日付と時刻 | 9月12日、20時15分 |
| 場所 | 庭の植木鉢の下 |
| 気温 | 24℃ |
| 天気と風 | 晴れ、弱い風 |
| 聞こえた音 | コロコロリー |
| 音の間隔 | 約3秒ごと |
| 1分間の回数 | 18回 |
| 姿の確認 | 黒褐色、長い触角 |
| 推定した種類 | エンマコオロギの可能性 |
録音するときは、スマートフォンを虫へ急に近づけないようにします。足音、光、地面の振動に反応して鳴きやむことがあるため、少し離れた位置で30秒から1分ほど録音するとよいでしょう。
音だけで断定せず、「可能性が高い種類」として記録することも大切です。複数の虫が同時に鳴いている場合は、一つの音だけを聞き分けるのが難しくなります。
11. よくある質問
Q. スズムシは口で鳴いているのですか?
いいえ。左右の前翅にあるやすり器とこすり器を使い、翅を振動させて音を出しています。口は発音の中心ではありません。
Q. コオロギは後ろ脚をこすって鳴くのですか?
身近なコオロギ類やスズムシは、主に左右の前翅をこすって鳴きます。後ろ脚と翅をこすって鳴く方法は、一部のバッタで見られます。
Q. メスのコオロギやスズムシも鳴きますか?
秋の夜に聞こえる大きな呼び鳴きをするのは、基本的に成虫のオスです。メスにはオスと同じように発達した発音器がありません。
Q. 幼虫が鳴かないのはなぜですか?
幼虫には発音に使える完成した前翅がないためです。脱皮を繰り返して成虫になり、発音器を備えた翅が完成すると鳴けるようになります。
Q. スズムシの鳴き声は「リンリン」と「リーン」のどちらですか?
どちらも人間による音の表現です。近くでは複数の細かな音が連続しているように聞こえ、遠くでは一つの長い「リーン」という音に感じられる場合があります。
Q. 電話ではスズムシの声が聞こえないのですか?
従来の電話では、人の会話に必要な音域を優先し、高い音を弱めて伝える仕組みが使われていました。そのため、スズムシの音が聞こえにくくなる場合があります。
ただし、現在は広い音域を伝えられる通話方式や端末もあるため、必ず聞こえなくなるわけではありません。国立国会図書館のレファレンス事例でも、機器や通信方式によって聞こえ方が変わることが整理されています。
Q. 日本人は虫の声を言葉のように聞くのですか?
文化や言語経験が虫の音の印象に影響する可能性はありますが、「日本人は必ず左脳で聞き、外国人は雑音として聞く」と一律に断定できるほど確立した見解ではありません。育った環境や虫の音への親しみ方による個人差もあります。
12. まとめ
コオロギやスズムシの鳴き声は、成虫のオスが左右の前翅をこすって作る繁殖のための信号です。
片方の前翅にあるやすり状の歯を、もう片方の前翅にあるこすり器で連続して弾き、発音鏡などの薄い部分を共鳴させます。小さな体から遠くまで届く音が出るのは、この共鳴の仕組みがあるためです。
重要な点を整理すると、次のようになります。
- 音を出すのは、主に左右の前翅
- 大きな呼び鳴きをするのは、基本的に成虫のオス
- 呼び鳴き、求愛鳴き、争い鳴きを使い分ける
- 種類によって音の高さ、リズム、休止時間が異なる
- 音を聞く鼓膜器官は前脚にある
- セミは腹部の発音膜、バッタの一部は後ろ脚を使う
- 気温が高いと鳴くテンポが速くなる傾向がある
- 鳴き声だけでなく、場所や時間、姿も種類を見分ける手掛かりになる
次に草むらから虫の音が聞こえたら、「どんな音か」だけでなく、音が何回ずつ続くのか、どのくらい休むのか、地面と木のどちらから聞こえるのかにも注意してみてください。
「リンリン」「コロコロ」という一音一音が、前翅で作られた精密な通信信号だと分かると、秋の虫の声がこれまでとは少し違って聞こえてきます。