クループ症候群とは?子どもの犬・オットセイのような咳、夜間の対処と受診目安
犬やオットセイが鳴くような硬い咳が突然出たときは、咳の大きさより、安静にしているときの呼吸を確認してください。落ち着くと呼吸音が消え、顔色がよく、水分を取れているなら軽症のことが多くあります。
一方、じっとしていても息を吸うたびに高い音がする、胸や喉元がへこむ、唇の色が悪い、ぐったりしている場合は、夜間でも早急な対応が必要です。
唇や舌が青紫色・灰色に見える、呼吸が止まりそう、起こしても反応が鈍い、強い呼吸困難がある場合は、迷わず119番を検討してください。
症状だけで家庭で診断を確定することはできません。年齢や基礎疾患、呼吸状態によって受診の必要性は変わるため、判断に迷うときは小児科や救急相談窓口へ連絡してください。
1. 犬・オットセイのような咳が出たときの受診判断
最初に見るのは咳の音ではなく、呼吸・顔色・反応・水分摂取です。
| 子どもの状態 | 行動の目安 |
|---|---|
| 唇や舌が青紫色・灰色、呼吸が途切れる、起こしても反応が鈍い | 119番を検討 |
| 強い陥没呼吸がある、息苦しくて泣けない・話せない、極端に静かになる | 119番を検討 |
| よだれが多く飲み込めない、前かがみで座りたがる、高熱と強いぐったり感がある | 喉を無理に見ず、救急要請を検討 |
| 安静時にも「ヒュー」「キュー」という高い音がする | 夜間でも早急に受診 |
| 呼吸が速い、胸や喉元がへこむ、水分が取れない | 当日中に受診 |
| 咳は特徴的だが、落ち着けば呼吸が静かで、顔色・反応・水分摂取が普段に近い | 注意深く観察し、小児科へ相談 |
日本小児科学会が運営するこどもの救急でも、咳のある子どもの緊急性を考える項目として、呼吸の苦しさ、口唇の色、胸がへこむ呼吸、ぐったりした様子、水分や尿の状態などが挙げられています。
激しい咳が出ていても、その合間に落ち着いて呼吸できることがあります。反対に、疲れて呼吸する力が落ちると、重症でも咳や呼吸音が弱くなる場合があります。
音が小さくなったから改善したとは限らない点にも注意が必要です。
2. クループ症候群は喉の空気の通り道が狭くなる状態
クループ症候群は、喉頭から気管上部に炎症や腫れが起こり、空気の通り道が狭くなることで、特徴的な咳や呼吸音が現れる状態の総称です。
典型的なものは、ウイルス性喉頭気管炎、または喉頭気管気管支炎と呼ばれます。
ウイルスに感染する
↓
声帯のすぐ下を中心に粘膜が腫れる
↓
息を吸うときの空気の通り道が狭くなる
↓
犬吠様咳嗽・声がれ・吸気性喘鳴が起こる
犬吠様咳嗽(けんばいようがいそう)は、犬が吠えるような乾いた咳を表す医学用語です。「ケンケン」「オットセイの鳴き声」「金属音のような咳」と表現されることもあります。
主な原因はパラインフルエンザウイルスです。そのほか、次のような呼吸器ウイルスでも起こります。
- インフルエンザウイルス
- RSウイルス
- アデノウイルス
- ヒトメタニューモウイルス
- SARS-CoV-2など
生後6か月から3歳ごろに多いのは、乳幼児の気道が大人より細いためです。粘膜が同じ厚さだけ腫れても、もともとの直径が小さいほど空気の通れる範囲が大きく減ります。
生後6か月未満での発症、学童期以降の反復、長引く症状では、別の気道疾患が隠れていないか評価が必要になることがあります。
3. 咳の特徴と夜間に悪化しやすい経過
典型的には、鼻水、軽い咳、発熱など、かぜに似た症状から始まり、その後に声がかすれ、硬く響く咳が現れます。
| 症状 | 見え方・聞こえ方 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 犬吠様咳嗽 | 犬・オットセイのような乾いた咳 | 音の大きさだけで重症度は決めない |
| 嗄声 | 声や泣き声がかすれる | 喉頭周辺の炎症を反映する |
| 吸気性喘鳴 | 息を吸うときの「ヒュー」「キュー」という音 | 安静時にも続くなら受診を急ぐ |
| 陥没呼吸 | 鎖骨の上、喉元、肋骨の間がへこむ | 呼吸に強い力を使っているサイン |
| 発熱・鼻水 | かぜに似た症状 | 熱が出ない場合もある |
| 食欲低下 | 飲水量や尿量が減る | 脱水に注意する |
症状は夜間から明け方に強くなりやすく、昼間は元気だった子どもが、寝入った後に突然「ケンケン」と咳き込むこともあります。
炎症や気道反応の日内変動に加え、泣くことで呼吸が速くなり、狭い場所を通る空気の乱れが大きくなることも症状を悪化させます。
カナダ小児科学会の診療指針では、典型例の症状は通常3〜7日ほど続き、約60%では犬吠様の咳が48時間以内に消えるとされています。
また、重症または生命に関わる例は1%未満、救急外来を受診した子どものうち入院が必要になる割合は6%未満と報告されています。
多くは軽症で回復するという数字ですが、家庭で重症例を完全に見分けられるという意味ではありません。乳幼児は短時間で呼吸状態が変わることがあるため、夜間も呼吸の変化を確認する必要があります。
4. 救急受診を急ぐサインと別の病気の可能性
クループが疑われても、次の状態では、単なるウイルス性の症状と決めつけないでください。
- 安静時にも吸気性喘鳴が続く
- 首元や肋骨の間が大きくへこむ
- 小鼻が開く、肩で息をする
- 唇、舌、顔色が青紫色・灰色・明らかに青白い
- ぐったりして起こしにくい、反応が普段と違う
- 呼吸が苦しく、泣く・話す・飲むことができない
- よだれが多く、唾液を飲み込めない
- 突然発症し、その直前に食べ物や小物を口にしていた
- 食べ物や薬の後に、じんましんや顔の腫れを伴って急に始まった
よだれ、飲み込みにくさ、高熱、強い重症感、前かがみで座りたがる様子は、喉頭蓋炎や喉の深い部分の感染症などでも見られます。
口の中を無理にのぞいたり、舌を押さえて喉の奥を確認したりすると、子どもを強く泣かせ、呼吸状態を悪化させる可能性があります。
食事中や小物で遊んでいる最中に突然咳き込んだ場合は、気道異物の可能性があります。食べ物、薬、虫刺されなどの後に発疹や顔の腫れを伴って急に始まった場合は、アナフィラキシーも考える必要があります。
「いつものクループだろう」と自己判断せず、発症の仕方が急、前回より明らかに重い、普段と違う症状がある場合は、早急に医療機関へ連絡してください。
5. 夜中に家庭でできる対処
呼吸が安定している場合は、次の順番で対応します。
1.子どもを安心させる
泣いたり興奮したりすると呼吸が速くなり、咳や吸気性喘鳴が強くなりやすくなります。大人が落ち着き、抱っこする、静かに声をかける、照明を落とすなど、刺激を減らします。
2.本人が楽な姿勢を保つ
無理に寝かせず、抱っこや座位など、本人が呼吸しやすそうな姿勢にします。苦しそうな子どもを押さえつけないでください。
3.安静時の呼吸を観察する
泣き止んだ状態で、息を吸うときの高い音、胸や喉元のへこみ、顔色、反応を確認します。
1分程度の呼吸や咳の動画を安全に撮れる状況なら、診察時の参考になることがあります。ただし、撮影のために救急要請や受診を遅らせてはいけません。
4.飲み込めるなら水分を少量ずつ与える
呼吸が落ち着き、むせずに飲めるなら、水、麦茶、母乳、ミルク、経口補水液などを少量ずつ与えます。
強い呼吸困難やよだれがある場合は、無理に飲ませず受診を優先します。
5.発熱や痛みには年齢に合った薬を使う
医師や薬剤師から案内された小児用の解熱鎮痛薬を、年齢・体重に合った量で使用します。家族の薬や以前処方された残り薬を自己判断で使わないでください。
6.夜間も定期的に状態を確認する
寝た後も、呼吸音、胸の動き、顔色、起こしたときの反応を確認します。改善したように見えても、同じ夜に再び悪化することがあります。
蒸気や加湿はクループを治す方法ではない
室内が極端に乾燥している場合、適度な湿度を保つことで喉の不快感が軽くなる可能性はあります。しかし、加湿した空気によって喉の腫れや病気の経過が改善するという明確な根拠は示されていません。
浴室に熱い蒸気を充満させる、鍋ややかんの湯気を吸わせる方法は、やけどの危険があるため避けてください。
市販の咳止めも狭くなった喉の気道を広げる薬ではありません。眠気が出る成分を含む場合もあるため、乳幼児に自己判断で使用せず、医師や薬剤師へ相談してください。
6. 医療機関で行われる診断と治療
典型的な症状がそろっている場合は、咳の音、声がれ、呼吸音、陥没呼吸、全身状態などから診断されます。
すべての子どもに血液検査やレントゲン検査が必要なわけではありません。異物や細菌感染など、別の病気が疑われる場合に追加検査が検討されます。
| 治療 | 主な目的 |
|---|---|
| 副腎皮質ステロイド | 喉頭周辺の炎症と腫れを抑える |
| アドレナリン吸入 | 中等症以上で、狭くなった気道の症状を速やかに改善する |
| 酸素投与 | 酸素不足を改善する |
| 点滴 | 水分が取れない場合の脱水を補う |
| 入院・気道管理 | 重症例を継続的に観察し、呼吸を支える |
ステロイド薬は治療の中心で、軽症から重症まで医師が必要性を判断します。効果は投与直後に最大になるわけではなく、一般に数時間かけて症状が改善します。
中等症から重症では、アドレナリン吸入が行われることがあります。比較的速く効果が現れますが、時間がたつと症状が戻る可能性があるため、吸入後は医療機関で一定時間観察されます。
典型的なウイルス性クループに抗菌薬は通常効きません。また、喘息に使われる一般的な気管支拡張薬は、主に喉頭が狭くなるクループには適さないことがあります。
薬の種類や投与量は子どもの状態によって異なるため、家庭に残っているステロイド薬、抗菌薬、吸入薬などを自己判断で使用しないでください。
7. 喘息・百日咳・異物との違い
「ヒュー」「ゼーゼー」という表現だけでは、音が発生している場所を区別できません。
| 状態 | 咳・呼吸音の特徴 | ほかの手がかり |
|---|---|---|
| クループ | 犬吠様咳嗽、主に息を吸うときの高い音 | 声がれ、夜間に悪化しやすい |
| 喘息・ウイルス性喘鳴 | 主に息を吐くときのゼーゼー | 胸から音が聞こえ、反復することがある |
| 細気管支炎 | ゼーゼー、速い呼吸 | 乳児に多く、哺乳量が減りやすい |
| 百日咳 | 連続する激しい咳、咳込み後の吸気音や嘔吐 | 咳が長引き、乳児では無呼吸にも注意 |
| 気道異物 | 突然の激しい咳込み | 食事中・遊んでいる最中に急に始まる |
| 喉頭蓋炎など | 高熱、よだれ、飲み込み困難、強い重症感 | 犬吠様咳嗽が目立たないことがある |
| アナフィラキシー | 急な声がれ、喘鳴、呼吸困難 | じんましん、顔や唇の腫れ、嘔吐など |
保護者が音の違いだけで病名を確定するのは困難です。
医療機関へ相談するときは、次の情報を伝えると判断の助けになります。
- 息を吸うときと吐くときのどちらで音がするか
- 突然始まったか、鼻水や発熱の後に始まったか
- 安静にすると呼吸音が消えるか
- 声がかすれているか
- 飲み込みにくさやよだれがあるか
- 発疹や顔の腫れがあるか
- 食事中や小物で遊んでいた直後ではないか
8. うつる可能性・登園・繰り返す場合
クループという咳の症状そのものが人にうつるわけではありませんが、原因となるウイルスは、咳やくしゃみのしぶき、鼻水や唾液が付いた手や物を介して広がります。
同じウイルスに感染しても、家族全員が犬吠様咳嗽になるとは限りません。年齢や気道の細さによって症状の出方が異なるため、大人は一般的なかぜ症状だけで済む場合があります。
感染対策の基本は次のとおりです。
- 帰宅後や食事前に手を洗う
- 鼻水を拭いた後に手を洗う
- タオル、食器、飲み物の共有を避ける
- 室内を定期的に換気する
- 症状が強い間は乳児や基礎疾患のある人との密接な接触を減らす
登園や登校は、病名だけではなく、原因となった感染症、発熱、呼吸状態、食事、活動性、施設の基準で判断します。
少なくとも次の状態では休ませ、小児科へ相談してください。
- 発熱が続いている
- 安静時にも呼吸音がある
- 咳込みが強く、集団生活が難しい
- 食事や水分が十分に取れない
- 夜間に眠れず、日中もぐったりしている
熱が下がり、呼吸が安定し、普段に近い食事や活動ができることが一つの目安です。インフルエンザや新型コロナウイルス感染症など、原因が特定された場合は、それぞれの出席停止期間や施設の決まりに従います。
一度治った後に、別のウイルス感染をきっかけとして再び起こる子どももいます。ただし、次のような場合は小児科や耳鼻咽喉科で相談する価値があります。
- 生後6か月未満で発症した
- 短期間に何度も繰り返す
- 毎回症状が重い
- 標準的な治療への反応が乏しい
- 学童期以降も繰り返す
- 普段から声がれや呼吸音がある
- むせや誤嚥を繰り返す
気道の形や声帯の動き、気道の軟らかさ、胃食道逆流など、別の要因がないか検討されることがあります。
9. よくある質問
Q.熱がなくてもクループの可能性はありますか?
あります。ウイルス感染でも発熱しないことがあり、夜間に突然症状が出るタイプもあります。熱の有無だけで重症度は判断できません。
Q.犬のような咳が大きければ重症ですか?
咳の音量と重症度は必ずしも一致しません。安静時の呼吸音、胸や喉元のへこみ、顔色、意識、水分摂取を優先して確認します。
Q.寝かせず抱っこした方がよいですか?
本人が楽そうなら、上体が起きる抱っこや座位で構いません。無理に横にする必要はありません。ただし、姿勢を変えても呼吸が苦しそうな場合は受診を優先します。
Q.冷たい外気を吸わせると治りますか?
一時的に楽になったと感じることはありますが、確実な治療ではありません。寒い屋外へ長時間連れ出したり、改善したように見えたため受診を中止したりするのは避けてください。
Q.何日くらい続きますか?
典型的には3〜7日程度です。特徴的な咳は早めに改善しても、一般的な咳や鼻水が残ることがあります。
呼吸状態が悪化する、強い咳が何日も続く、一度よくなった後に高熱やぐったり感が出る場合は再受診してください。
Q.夜間に受診すべきか迷ったらどうしますか?
明らかな呼吸困難、顔色不良、意識の異常があれば119番を検討します。
そこまでではないものの判断に迷う場合は、厚生労働省の子ども医療電話相談「#8000」で、小児科医師や看護師に対処や受診先を相談できます。実施時間は都道府県によって異なります。
Q.一度よくなった後に同じ夜に悪化することはありますか?
あります。泣いた後や寝入った後に再び咳や呼吸音が強くなる場合があります。寝かせた後も定期的に呼吸、顔色、反応を確認してください。
10. 咳の音より安静時の呼吸を優先する
夜中に突然、犬やオットセイのような咳が始まると強い不安を感じます。多くは数日で改善しますが、気道が細い乳幼児では短時間で呼吸状態が変わることがあります。
確認するポイントは次の4つです。
- 安静時にも高い呼吸音があるか
- 胸や喉元がへこんでいないか
- 唇や顔色、反応は普段どおりか
- 水分が取れ、尿が出ているか
呼吸困難、チアノーゼ、意識低下、飲み込み困難は緊急性の高いサインです。
軽そうに見えても、生後6か月未満、初めての症状、基礎疾患がある、夜間に悪化して判断できない場合は、早めに小児科や救急相談窓口へ連絡してください。