エスカレーターの段はなぜギザギザ?溝とくし板がかみ合う仕組み
エスカレーターの踏段に並ぶ細い凹凸は、乗り口や降り口にある「くし」とかみ合わせるための形です。
乗降口へ近づいた踏段は平らになり、くしの歯が踏段上面の溝へ入り込みます。これにより、動いている踏段を床の下へ送り込みながら、靴や衣類などを固定された床側へ移しやすくしています。
表面の凹凸には足元を安定させる面もありますが、「滑り止めのためだけ」という説明では不十分です。細い溝とくし板は、別々の部品ではなく、乗降口の安全性を支える一組の構造です。
1. ギザギザの主な役割はくし板とのかみ合わせ
足を乗せる一段一段は、一般に踏段(ふみだん)またはステップと呼ばれます。踏段の上面には、進行方向へ伸びる細い溝と突起が何本も並んでいます。
一方、乗り口と降り口の床には、くしのような歯を持つ部品があります。一般に「くし」「くし板」「コム」「コムプレート」などと呼ばれる部分です。
踏段が乗降口へ進むと、次のような位置関係になります。
踏段の進行方向 →→→→→
踏段の溝 ============
くしの歯 ^^^^^^^^^^^^^^^^
↑溝の間へ入り込む
くしの歯は、踏段の突起へ正面からぶつかるのではなく、細い溝の中へ入ります。そのまま踏段だけがくし板の下へ進み、利用者の足は固定された床へ移ります。
日本エレベーター協会の案内でも、ステップ上の凹凸は、降りるときに衣類などが巻き込まれることを防ぐために設けられていると説明されています。
つまり、凹凸の中心的な役割は、単に靴底との摩擦を増やすことではありません。くしの歯を受け入れ、乗降口で踏段と床を安全につなぐことにあります。
2. 踏段の溝と乗降口の部品の名称
身近な設備ですが、各部にはそれぞれ名称があります。
| 部分 | 主な呼び方 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 人が乗る段 | 踏段、ステップ | 利用者を乗せて循環する |
| 踏段の水平な上面 | 踏面 | 靴底が触れる部分 |
| 踏面の細い凹凸 | 溝、クリート、リブ | くしの歯とかみ合う |
| 乗降口の歯状部分 | くし、コム | 踏段の溝へ入り込む |
| くしを支える板 | くし板、コムプレート | 固定床と動く踏段の境界を作る |
| 踏段の左右にある固定板 | スカートガード | 踏段の側面を覆う |
| 乗降口の固定された床 | 乗降板、床板 | 建物の床へつなぐ |
「ギザギザ」と呼ばれる形は、踏段だけにあるわけではありません。踏段側の溝と乗降口側の歯が、同じ間隔で並ぶことによって、互いに接触せずにかみ合います。
なお、側面に設置されたブラシは、くし板とは別の設備です。
- 溝とくし板:乗り口・降り口の境目に対応する
- 側面ブラシ:踏段と側面パネルの隙間へ足を近づけにくくする
- 黄色い線:踏段の端や立ち位置を見分けやすくする
それぞれ異なる場所の危険を減らしています。
3. くし板とかみ合って床下へ入るまでの流れ
エスカレーターの踏段は、降り口で突然消えているわけではありません。乗降口へ近づくにつれて段差がなくなり、平らに並んだ状態で床の下へ移動します。
一連の流れは次のとおりです。
-
傾斜部分を階段状に進む
前後の踏段に高低差があり、通常の階段に近い形になります。 -
乗降口の手前で段差が小さくなる
踏段を支えるローラーとレールの位置関係が変わり、複数の踏段が水平に並びます。 -
くしの歯が溝へ入る
踏段上面の細い溝へ、固定床側のくしが差し込まれます。 -
利用者は固定床へ進む
靴や衣類は床側へ移り、踏段だけがくし板の下へ進みます。 -
踏段は内部で反転する
床下へ入った踏段は、エスカレーターの裏側を通って反対側へ戻ります。
重要なのは、くし板が踏段の動きを止める部品ではないことです。踏段は動き続けたまま、くしの歯の下へ滑り込むように進みます。
くし板は「動く階段の終点」ではなく、動く踏段から固定床へ利用者を受け渡す境界です。
4. 平らな板ではなく細い溝が必要な理由
踏段と固定床を、どちらも平らな板のまま突き合わせた場合を考えてみます。
動く踏段 →→→ |隙間| 固定床
動く物と止まっている物の間には、接触を避けるための隙間が必要です。ところが、一本の横長の隙間ができると、靴先や衣類、小物などが境目へ入りやすくなります。
そこで、一つの大きな境目を、細かい凹凸の組み合わせへ置き換えます。
動く踏段 →→→ ========
^^^^^^^^^^^^
固定側のくし
くしの歯が溝の中へ入ることで、踏段と固定床が進行方向に少し重なるような形になります。動く面と固定面の間に単純な横一線の開口部を作らず、境目を細かく分けられるのです。
細い溝が何本も必要なのは、幅の広い歯を数本だけ設けるより、踏段の横幅全体で細かくかみ合わせられるからです。
また、踏段がわずかに左右へずれたり、使用によって部品が摩耗したりしても、正常な範囲で接触しないよう、部品同士には適切な隙間が設けられています。完全に密着しているわけではありません。
5. 溝は滑り止めのためでもある?
凹凸のある面は、完全に平らな金属板よりも靴底が接触しやすく、水や細かな汚れが一面に広がりにくい場合があります。その意味では、足元の安定を助ける働きも考えられます。
しかし、次の理由から「滑り止めが主目的」とは言い切れません。
- 溝がすべて進行方向へそろっている
- 乗降口のくしと同じ間隔で作られている
- 踏段が床下へ入る場所で正確なかみ合わせが必要になる
- くし板の歯が溝の中へ入ることを前提に設計されている
滑り止めだけが目的なら、細かい点状の突起、粗い表面加工、ゴム状の材料など、別の方法も考えられます。乗降口のくしと対応する細長い形であることが、構造上の目的を示しています。
| 説明 | 判断 |
|---|---|
| 滑り止めだけのため | 不十分 |
| 靴の泥を落とすため | 主目的ではない |
| くし板とかみ合わせるため | 中心的な役割 |
| 衣類や物の巻き込みを減らすため | かみ合わせによる安全上の役割 |
| 水を排出するため | 条件によって副次的に働く場合がある |
溝があるから、どのような靴でも安全というわけではありません。細いピンヒールなどは、かえって溝へ入り込む可能性があります。
6. エスカレーターの段はどこへ消える?
踏段は、上の階と下の階の間を輪のように循環しています。
一般的な踏段には、前側と後ろ側にそれぞれローラーが付いています。前後のローラーが別々のガイドレールを進み、二つのレールの高低差が変わることで、踏段の形が次のように変化します。
乗り口 傾斜部分 降り口
____ _| ̄|_| ̄|_ ____
平ら 階段状 平ら
乗降口ではローラーの高さが近づき、踏段が平らに並びます。傾斜部分では前後の位置関係が変わり、階段状の段差が現れます。
東芝エレベータの構造解説では、一つの踏段に前後合計4個のローラーがあり、前側と後ろ側が別のガイドレールに沿って動く仕組みが示されています。
降り口で床下へ入った踏段は、内部のレールに沿って反転します。その後、裏返った状態で反対側へ戻り、再び乗り口から現れます。
踏段を動かす力は、主にモーター、駆動輪、踏段チェーンによって伝えられます。多数の踏段が一本の長い階段として動いているのではなく、一段ずつつながった部品が連続して循環しています。
7. 溝やくし板に物が挟まるとどうなる?
溝とくし板は巻き込みを減らすための構造ですが、異物を完全に排除できるわけではありません。
特に注意が必要なのは、細長い物、柔らかい物、溝に入りやすい物です。
- ピンヒールの細いかかと
- ほどけた靴ひも
- ロングスカートやコートの裾
- 傘の先
- 小石や硬貨
- 柔らかいサンダルの先端
- 子どもの指
日本エレベーター協会の利用案内では、ピンヒールがステップの溝に挟まる危険や、傘の先などを溝へ差し込むと破損や急停止につながる可能性が示されています。
機種によっては、踏段の持ち上がりや部品への異常な力を検知し、運転を停止させる安全装置が備えられています。ただし、停止すれば必ず無傷で済むわけではありません。急停止によって、ほかの利用者がバランスを崩す可能性もあります。
異物を見つけた場合は、動いている踏段やくし板へ手を伸ばさず、施設の係員へ知らせます。くしの歯が欠けている、浮いている、異音がする場合も同様です。
降り口では足元を見続けて立ち止まるのではなく、くし板をまたぐように一歩前へ進みます。後ろから次の利用者が運ばれてくるため、降りた直後の場所を空けることも重要です。
8. よくある質問
Q. 踏段の溝は靴の泥を落とすためですか?
泥や砂が溝へ入ることはありますが、靴を掃除するための形ではありません。主な役割は、乗降口のくしの歯と正確にかみ合わせることです。落ちた小石などは、逆に故障や停止の原因になる場合があります。
Q. くし板は物を切る刃物ですか?
物を切断するための刃ではありません。歯のような形は、踏段の溝へ入り込むためのものです。ただし、動く踏段との境目なので、手や衣類を近づけてよい場所ではありません。
Q. くしの歯は踏段に触れているのですか?
通常は接触しないよう、わずかな隙間を保って設置されています。接触すると摩耗や破損の原因になるため、保守点検によって位置や状態が確認されます。
Q. 溝が深いほど安全になりますか?
単純に深ければよいわけではありません。くしとのかみ合わせ、部品の強度、靴の挟まりやすさ、清掃性などを含めて設計されます。
Q. 動く歩道にも同じような溝がありますか?
パレット式の動く歩道では、エスカレーターと似た溝とくしを持つものがあります。乗降口で動くパレットを固定床の下へ送り込む必要があるためです。ベルト式など、方式によって構造は異なります。
Q. 踏段が降り口で平らになるのはなぜですか?
前後のローラーを案内するレールの位置関係が変わるためです。乗降口で複数の踏段が水平に並ぶことで、足を固定床へ移しやすくなり、くし板とも安定してかみ合います。
9. まとめ
踏段上面に並ぶ細い溝は、単なる模様でも、靴の泥を落とすための形でもありません。
要点を整理すると、次のようになります。
- 踏段の溝は、乗降口のくしの歯とかみ合う
- くし板は、動く踏段と固定床の境界を作る
- かみ合わせによって、衣類や物の巻き込みを減らしている
- 表面の凹凸には足元を安定させる面もあるが、滑り止めだけが目的ではない
- 踏段は降り口で終わらず、床下を通って循環する
- ピンヒール、靴ひも、傘の先などは溝へ入り込む可能性がある
- 降り口では立ち止まらず、くし板を越えて前へ進む
普段は意識しない細かなギザギザも、動く踏段を固定された床へ安全につなぐために計算された形です。乗降口を見ると、踏段の溝へくしの歯が入り込み、段だけが床下へ進んでいく様子を確認できます。