グロインペイン症候群とは?鼠径部痛のセルフチェック・治し方と競技復帰の目安
サッカーのキックや切り返し、陸上のダッシュで足の付け根が痛むときは、単なる筋肉痛と決めつけず、痛みを再現する動作をいったん減らすことが大切です。鼠径部の痛みには、内転筋、腸腰筋、恥骨、鼠径管、股関節など複数の組織が関係します。
軽いジョギングでは問題がなくても、強いキックや方向転換で再発することがあります。歩くだけでも痛む、腫れや内出血がある、数日負荷を下げても改善しない場合は、スポーツ整形外科や整形外科で原因を確認してください。
グロインペイン症候群は、腸などが腹壁から飛び出す「鼠径ヘルニア」と同じ病気ではありません。足の付け根に膨らみがある場合や、強い腹痛・吐き気を伴う場合は、自己判断せず速やかに受診する必要があります。
1. どのような症状が現れるのか
グロインとは、下腹部と太ももの境目にある鼠径部周辺を指します。鼠径部痛症候群とも呼ばれ、スポーツ中に起こる足の付け根周辺の痛みをまとめた名称です。一つの筋肉だけに起こる単一の病気ではありません。
主な症状には次のものがあります。
- ボールを蹴ると足の付け根が痛む
- ダッシュ、急停止、方向転換で痛む
- 起き上がりや腹筋運動で下腹部に響く
- 脚を閉じるように力を入れると内ももが痛む
- 膝を持ち上げると鼠径部の奥が痛む
- 片脚立ちや寝返りで恥骨周辺が痛む
- 深くしゃがむと股関節が詰まる、引っかかる
- 練習中は動けても、終了後や翌日に悪化する
日本整形外科学会も、ランニング、起き上がり、キックなどで、鼠径部や下腹部、内もも周辺に痛みが現れるスポーツ障害として案内しています。
痛みが出やすい競技の代表はサッカーですが、ラグビー、ホッケー、陸上競技など、加速・減速・片脚支持・股関節の大きな動きを繰り返す競技でも起こります。
2026年に公表されたスポーツ選手の股関節・鼠径部外傷に関する研究では、試合中の発生率が練習中より高い傾向が示されました。試合では全力の切り返しや接触が増えるため、練習で走れることだけを復帰基準にするのは不十分です。
2. 痛む場所と動作を整理するセルフチェック
自宅でできる確認は、診断ではなく、症状を整理して受診時に伝えやすくするためのものです。強い痛みがある場合や、脚に体重をかけられない場合は試さないでください。
| 確認すること | 無理のない確認方法 | 関係する可能性がある部位 |
|---|---|---|
| 最も痛む位置 | 指1本で場所を示す | 内転筋、下腹部、恥骨、股関節など |
| 脚を閉じる力 | 膝の間に枕を挟み、軽く押す | 内転筋周辺 |
| 膝を持ち上げる動作 | 座って片膝をゆっくり上げる | 腸腰筋周辺 |
| 起き上がり | 勢いをつけず上体を少し起こす | 下腹部・鼠径管周辺 |
| 咳やくしゃみ | 痛みや膨らみの変化を見る | 鼠径管、鼠径ヘルニアなど |
| 深いしゃがみ込み | 痛くない範囲でゆっくり行う | 股関節内部 |
| 片脚立ち | 壁の近くで数秒立つ | 恥骨、股関節、骨盤周辺 |
次の情報も記録しておくと、原因を絞る助けになります。
- いつから痛み始めたか
- 練習量、走行距離、キック数を急に増やさなかったか
- 瞬間的に痛んだのか、徐々に痛くなったのか
- ウォーミングアップで軽くなるか
- 運動後や翌朝に悪化するか
- 直線走、切り返し、キックのどれで痛むか
- 股関節の引っかかりや可動域の左右差があるか
- 鼠径部に膨らみが出るか
枕を挟んで痛むから内転筋障害、咳で痛むから鼠径ヘルニア、と一つの動作だけで決めることはできません。複数の部位が同時に関係しているケースもあります。
3. 痛みがあるときにやってはいけないこと
早く戻りたいときほど、痛みを隠して同じ負荷を続ける行動は避ける必要があります。
全力のキックや切り返しを繰り返す
ジョギングができても、キックや急な方向転換では鼠径部に大きな力が加わります。痛みが出る動作を反復すると、回復に必要な負荷調整ができません。
強い開脚ストレッチを行う
硬さを感じても、痛む腱や筋肉の付着部を強く伸ばせば治るとは限りません。ストレッチ中に鋭く痛む、終了後や翌日に悪化する場合は中止します。
鎮痛薬やサポーターで痛みを隠して出場する
痛みが弱くなることと、組織が競技負荷に耐えられることは別です。薬の使用は医師や薬剤師に相談し、サポーターは補助として扱います。
休んだ直後に練習量を元へ戻す
数日休んで痛みが軽くなっても、筋力や競技への耐性まで戻ったとは限りません。ジョギング、加速、減速、切り返し、競技動作の順に負荷を上げます。
自己流で高負荷の内転筋トレーニングを始める
コペンハーゲン・アダクションなどは予防に役立つ可能性がありますが、痛みが強い時期に高い負荷から始めると悪化することがあります。最初は専門家の指導を受けるのが安全です。
4. すぐ受診すべき症状と何科を選ぶか
次の症状がある場合は、練習を中止して医療機関を受診してください。
| 症状 | 対応の目安 |
|---|---|
| 急に強く痛み、歩けない | 当日中の受診を検討 |
| 「ブチッ」という感覚の後に腫れや内出血が出た | 整形外科へ |
| 脚に体重をかけられない | 早めに整形外科へ |
| 鼠径部の膨らみが硬く、横になっても戻らない | 速やかに外科・救急へ |
| 膨らみに強い腹痛や嘔吐を伴う | 救急受診を検討 |
| 急な精巣痛や陰嚢の腫れがある | 泌尿器科・救急へ |
| 発熱、安静時痛、夜間痛がある | 早めに受診 |
| 成長期の選手が脚を引きずる | 小児整形外科・整形外科へ |
スポーツ中の鼠径部痛は、スポーツ整形外科または整形外科が基本です。鼠径部に明らかな膨らみがあれば外科、急な精巣痛があれば泌尿器科や救急の対象になります。
陸上選手では、大腿骨頸部や骨盤の疲労骨折が鼠径部痛として現れる場合があります。走行距離の急増、食事量不足、体重減少、月経異常などが重なっている場合は、筋肉痛と決めつけないことが重要です。
5. 原因は内転筋だけではない
国際的なドーハ合意では、スポーツ選手の鼠径部痛を、診察所見に基づいて次のように分類しています。
| 分類 | 主な特徴 |
|---|---|
| 内転筋関連 | 内転筋に圧痛があり、脚を閉じる力で普段の痛みが出る |
| 腸腰筋関連 | 腸腰筋周辺が痛み、膝を上げる動作などで悪化する |
| 鼠径部関連 | 鼠径管周辺に痛みと圧痛があり、腹筋運動や咳で悪化しやすい |
| 恥骨関連 | 恥骨結合やその周辺に圧痛がある |
| 股関節関連 | 股関節内部の病変が鼠径部痛として現れる |
| その他 | 疲労骨折、鼠径ヘルニア、泌尿器・婦人科疾患など |
たとえば、サッカー選手がロングキックを増やした後に内ももが痛み、脚を閉じる力で症状が再現される場合は、内転筋関連が疑われます。
短距離選手がスタート練習後に膝を上げると鼠径部の奥が痛む場合は、腸腰筋周辺が関係している可能性があります。深くしゃがんだときの詰まり感や、股関節をひねったときの鋭い痛みがある場合は、股関節内部の問題も検討されます。
「骨盤がゆがんでいるから」「体が硬いから」と一つの要因だけで説明するのは適切ではありません。筋力、可動域、競技負荷、過去のけが、回復不足などが組み合わさっていることがあります。
6. 鼠径ヘルニア・恥骨結合炎との違い
鼠径部痛症候群と鼠径ヘルニアは、痛む場所が近くても別の状態です。
| 状態 | 主な違い |
|---|---|
| 鼠径部痛症候群 | スポーツ動作に伴う鼠径部周辺の痛みの総称 |
| 鼠径ヘルニア | 腹壁の弱い部分から脂肪や腸管などが突出する |
| 恥骨関連鼠径部痛 | 恥骨結合や恥骨周辺の圧痛を伴う分類 |
| 恥骨結合炎 | 恥骨結合周辺の炎症や骨の変化を示す名称 |
| スポーツヘルニア | 真のヘルニアを伴わない鼠径部痛にも使われる曖昧な呼称 |
鼠径ヘルニアでは、立ったときや咳をしたときに足の付け根が膨らみ、横になると小さくなることがあります。スポーツ選手の鼠径部関連痛では、通常、触って分かる明らかなヘルニアはありません。
恥骨結合炎も、鼠径部痛症候群全体と同じ意味ではありません。画像で恥骨周辺に変化が見つかっても痛みの原因とは限らず、反対に画像変化が目立たなくても症状が出ることがあります。診察所見、画像、痛む動作を合わせて判断します。
7. 医療機関で行われる検査
診察では、痛みが始まった状況、練習量の変化、競技中のどの動作で悪化するかを確認します。その後、内転筋、腸腰筋、恥骨、鼠径管、股関節などを触り、筋力や可動域を調べます。
必要に応じて次の検査が行われます。
- X線:骨折、剥離骨折、股関節の骨形態など
- 超音波検査:筋肉や腱、鼠径ヘルニアの動的な変化など
- MRI:筋腱損傷、疲労骨折、恥骨や股関節周辺の状態など
- 血液検査:感染症や炎症性疾患が疑われる場合
画像に変化が写っただけで原因が確定するわけではありません。競技者では症状がなくても骨や腱に変化が見られることがあるため、普段の痛みが診察で再現されるか、競技動作と一致するかが重要です。
8. 治し方の中心は負荷調整と運動療法
治療では、痛む組織を休ませるだけでなく、競技で必要な力に再び耐えられる状態をつくります。
第1段階:痛みを増やす負荷を下げる
全力キック、スプリント、切り返しなどを一時的に減らします。痛みが出なければ、ウォーキングや軽い自転車運動などで体力を保つ方法があります。
第2段階:基礎的な筋力を戻す
症状に合わせ、内転筋、臀筋、体幹、腸腰筋などを低負荷から鍛えます。初期には、関節を大きく動かさず力を入れる等尺性運動が用いられることがあります。
第3段階:走行負荷を上げる
歩行、ジョギング、一定速度のランニング、加速、減速の順に進みます。陸上では距離だけでなく、速度、坂道、路面、スパイクの使用を一度に増やさないことが大切です。
第4段階:競技特有の動作へ戻す
サッカーなら短いパス、長いパス、シュート、方向転換、対人練習へ進みます。直線で走れても、強いキックや接触で症状が再発する場合があります。
長期間続く内転筋関連の鼠径部痛を対象としたランダム化比較試験では、骨盤と股関節周辺の筋力や協調性を高める積極的な運動療法が、受動的な治療を中心とする方法より良好な競技復帰につながりました。
マッサージ、電気治療、テーピングなどが補助になることはありますが、それだけで競技に必要な筋力や負荷耐性が戻るとは限りません。
9. 治るまでの期間はどのくらいか
回復期間は、痛みの原因、急性か慢性か、損傷の程度、競技レベルによって異なります。
急性の内転筋損傷を対象とした基準ベースのリハビリ研究では、MRIグレード0~2の成人男性選手が臨床的に痛みのない状態になるまでの中央値は13日、全体練習へ戻るまでの中央値は18日でした。
ただし、これは管理されたリハビリを受けた急性内転筋損傷の結果です。慢性的な鼠径部痛、恥骨や股関節の問題、完全断裂に近い損傷へ、そのまま当てはめることはできません。数か月単位の回復が必要な場合もあります。
期間を判断するときは、次の段階を区別します。
日常生活で痛くない
↓
ジョギングで痛くない
↓
加速・減速で痛くない
↓
切り返し・ジャンプで痛くない
↓
キックや競技練習後、翌日も悪化しない
最初の段階で痛みが消えても、競技復帰が完了したとは限りません。
10. サッカー・陸上へ復帰する判断基準
股関節・鼠径部のけがには、すべての選手に共通する完全に標準化された復帰基準が確立されているわけではありません。担当医や理学療法士と相談しながら、痛み、筋力、競技動作、翌日の反応を総合して判断します。
復帰前に確認したい項目は次のとおりです。
- 歩行、階段、寝返りで痛みがない
- 患部を押したときの強い痛みがない
- 脚を閉じる筋力テストで普段の痛みが出ない
- 股関節の可動域に大きな左右差がない
- ジョギング後と翌日に悪化しない
- 全力に近い加速と減速ができる
- 左右への切り返しができる
- 片脚ジャンプと着地を安定して行える
- 強いキックを繰り返しても痛まない
- 通常練習へ参加した翌日も症状が増えない
- 痛みをかばうフォームが残っていない
「痛み止めを使えばプレーできる」「直線なら走れる」という状態だけで試合へ戻るのは避けます。サッカーではキックと切り返し、陸上では競技速度での走行まで段階的に確認します。
11. 再発を防ぐためにできること
予防では、柔軟性だけでなく、競技で受ける力に耐えられる筋力を維持することが重要です。
男性サッカー選手を対象にした内転筋強化プログラムの研究では、コペンハーゲン・アダクションを基礎とする運動を行ったグループで、鼠径部の問題を報告するリスクが41%低下しました。
ただし、すでに痛みがある人が、同じ内容を高い負荷から始めてよいという意味ではありません。
再発予防のポイントは次のとおりです。
- 内転筋、臀筋、体幹を継続的に鍛える
- オフ明けにスプリントやキック数を急増させない
- 練習後だけでなく翌朝の痛みを確認する
- シューズ、スパイク、路面を急に変えない
- 痛みをかばったフォームで練習を続けない
- 睡眠時間と食事量を確保する
- 再発を繰り返す場合は股関節内部も評価してもらう
チームでは、選手が痛みを申告しやすい環境も重要です。軽い段階で負荷を調整できれば、症状の長期化を避けられる可能性があります。
12. 中学生・高校生で注意したいこと
成長期では、大人の慢性障害と同じように見えても、骨盤の剥離骨折や股関節の病気が隠れていることがあります。
次のような場合は、ストレッチや筋力トレーニングを自己流で続けず受診してください。
- キックやダッシュの瞬間に激痛が走った
- 「音がした」「何かが外れた」と感じた
- 走れない、脚を引きずる
- 数日たっても歩行時痛が強い
- 股関節が動かしにくい
- 安静時や夜間にも痛む
保護者や指導者は、「休むとレギュラーから外れる」と我慢させないことが大切です。成長期の骨は、筋肉や腱から強く引かれる部分を損傷することがあるため、早期の評価が必要です。
13. よくある質問
Q. 軽い痛みなら自然に治りますか?
負荷を減らすだけで軽くなる場合もあります。ただし、練習を再開するたびに同じ場所が痛む場合は、筋力や負荷耐性が戻っていない可能性があります。
Q. 痛くても練習を続けてよいですか?
痛みでフォームが変わる、練習後や翌日に悪化する、回を追うごとに強くなる場合は負荷を下げてください。競技を完全に休む必要があるかは、原因や症状によって異なります。
Q. 恥骨結合炎と同じですか?
同じではありません。鼠径部痛症候群は複数の原因を含む総称で、恥骨結合周辺の問題はその一部です。内転筋、腸腰筋、鼠径管、股関節などが主な原因の場合もあります。
Q. ストレッチだけで改善できますか?
ストレッチだけで十分とは限りません。長く続く内転筋関連痛では、内転筋、臀筋、体幹などの段階的な筋力トレーニングが重要です。
Q. サポーターやテーピングは有効ですか?
不安感や動作時の痛みを軽くする補助になる場合がありますが、原因を治すものではありません。装着して痛みが消えても、すぐ全力で動かないでください。
Q. 何科へ行けばよいですか?
基本はスポーツ整形外科または整形外科です。明らかな膨らみは外科、急な精巣痛は泌尿器科や救急へ相談します。
Q. 何日休めば試合に戻れますか?
日数だけでは判断できません。走行、加速、切り返し、キックを行い、その当日と翌日に症状が悪化しないことを確認してから戻ります。
14. 痛みを隠さず段階的に競技へ戻ろう
鼠径部痛症候群は、内転筋だけの問題ではなく、腸腰筋、恥骨、鼠径管、股関節など複数の原因を含む総称です。
重要な点を整理すると、次のようになります。
- 鼠径ヘルニアや恥骨結合炎と同じ病気ではない
- セルフチェックだけで原因を確定することはできない
- 痛みを再現する全力キックや切り返しは一時的に減らす
- 治療の中心は負荷調整と段階的な運動療法
- 回復期間は原因と損傷の程度によって異なる
- 復帰は日数だけでなく競技動作と翌日の反応で判断する
- 歩行困難、強い腫れ、膨らみ、精巣痛などは早急に受診する
痛みを我慢して練習を続けるより、早い段階で負荷を調整し、必要な筋力と競技動作を順番に取り戻すほうが、安定した復帰につながります。繰り返し再発している場合は、痛む場所だけでなく、股関節の動き、トレーニング量、キック数、睡眠や食事も含めて見直してください。