ラーニングピラミッドは嘘?「人に教えると90%定着」の根拠なし説と本当に効果的な勉強法
1. 結論:90%定着という数字は信じすぎない方がいい
「講義は5%しか残らない」「読書は10%」「人に教えると90%定着する」という図を見たことがある人は多いかもしれません。
結論から言うと、この数字をそのまま科学的根拠のある定着率として扱うのは危険です。学習方法ごとに「講義5%・読書10%・視聴覚20%・実践75%・教える90%」ときれいに分けられるほど、人間の記憶や理解は単純ではありません。
ただし、ここで誤解してはいけないのは、「人に教える学習」や「アウトプット学習」まで無意味というわけではないことです。
むしろ、認知心理学や教育研究では、次のような学習行動は比較的効果が高いと考えられています。
- 答えを見ずに思い出す
- 時間を空けて復習する
- 問題を解く
- 自分の言葉で説明する
- 間違えた理由を修正する
つまり大切なのは、「90%」という数字を信じることではありません。受け身で聞くだけ・読むだけの学習から、思い出す・使う・説明する学習へ変えることです。
2. そもそも何を表す図なのか
一般的に広まっている図では、学習方法ごとの定着率が次のように示されます。
| 学習方法 | よく示される定着率 |
|---|---|
| 講義を受ける | 5% |
| 読書する | 10% |
| 視聴覚教材を見る | 20% |
| 実演を見る | 30% |
| グループ討論をする | 50% |
| 自分で体験する | 75% |
| 他人に教える | 90% |
この図は、National Training Laboratories Institute(NTL)や、教育学者エドガー・デールの「経験の円錐」と結びつけて紹介されることがあります。
しかし、ここが重要です。エドガー・デールの「経験の円錐」は、もともと学習定着率を数字で示したものではありません。経験や教材の抽象度を整理するためのモデルであり、「読書は10%しか覚えない」「人に教えると90%残る」と測定した研究ではありません。
Ken Mastersのレビューでも、デールの「経験の円錐」と、後に広まった割合付きの図は区別すべきものとして扱われています。詳しくはEdgar Dale's Pyramid of Learning in medical educationが参考になります。
3. 「根拠なし」と言われる理由
この図が批判される最大の理由は、数字の出どころがはっきりしないことです。
研究として信頼するには、少なくとも次のような情報が必要です。
| 確認したいこと | なぜ必要か |
|---|---|
| 誰を対象にしたのか | 小学生・大学生・社会人では結果が変わる |
| 何を学ばせたのか | 英単語・歴史・数学・実技では定着の仕方が違う |
| いつ測定したのか | 直後テストと1週間後テストでは結果が違う |
| どう測定したのか | 暗記テスト・記述問題・実技評価で結果が違う |
| 比較条件は何か | 講義だけ、読書だけ、復習ありでは意味が違う |
ところが、広く流通している図では、こうした条件が明確ではありません。
Kåre Letrudによる批判論文でも、NTL版の図には歴史的・方法論的な問題があると指摘されています。詳しくはA rebuttal of NTL Institute's learning pyramidが参考になります。
特に疑わしいのは、数字があまりにも整いすぎている点です。
- 5%
- 10%
- 20%
- 30%
- 50%
- 75%
- 90%
実際の教育実験では、学習者の背景、教材、テスト形式、学習時間、復習の有無によって結果は大きく変わります。これほど単純な割合で、あらゆる学習方法を一律に比べるのは無理があります。
そのため、この図は次のように受け止めるのが現実的です。
正確な定着率を示す統計ではなく、受け身の学習だけに偏らないよう促すための説明図。
4. 文部科学省やアクティブラーニングとの関係
「文部科学省もアクティブラーニングを重視しているから、この図は正しいのでは?」と思う人もいるかもしれません。
ここも分けて考える必要があります。
文部科学省は、学習指導要領の改訂で「何を学ぶか」だけでなく「どのように学ぶか」も重視し、主体的・対話的で深い学びの視点から授業改善を進めると説明しています。詳しくは文部科学省の平成29・30・31年改訂学習指導要領のページで確認できます。
しかし、これは「講義5%、読書10%、人に教える90%」という数字を文部科学省が公式に認めている、という意味ではありません。
整理すると、次のようになります。
| 項目 | 正しい理解 |
|---|---|
| 主体的・対話的で深い学び | 学習者が考え、対話し、知識を活用する授業改善の視点 |
| アクティブラーニング | 受け身ではなく、学習者が能動的に関わる学び方 |
| 定着率90%の図 | 数値の根拠が不明確な説明図として扱うべきもの |
つまり、「能動的に学ぶことは大切」という方向性と、「90%という数字が正確である」という主張は別物です。
この区別をしないと、教育的に有益な考え方まで、根拠の弱い数字と一緒に誤解してしまいます。
5. なぜ今、このテーマが重要なのか
今このテーマが重要なのは、学習の目的が「覚えること」だけではなくなっているからです。
学校教育でも社会人学習でも、単に知識を暗記するだけでなく、知識を使って考える力、説明する力、問題を解く力が求められています。
OECDのPISA調査も、知識や技能を実生活の文脈でどの程度使えるかを重視しています。PISA2022では、日本は数学・読解・科学でOECD平均を上回りましたが、同時に世界的には数学や読解の平均得点低下も報告されています。詳しくはOECDのPISA 2022 Resultsで確認できます。
また、社会人にとっても、英会話、TOEIC、資格試験、リスキリングでは「教材を見た」「動画を最後まで見た」だけでは成果につながりにくい場面が多くあります。
たとえば、TOEICなら単語を見て意味がわかるだけでなく、英文の中で素早く処理できる必要があります。資格試験なら、用語を知っているだけでなく、選択肢のどこが誤りなのか判断できる必要があります。
だからこそ、学習法を考えるうえでは、次の問いが重要になります。
その勉強は、見た時間を増やしているだけか。
それとも、思い出す力・使う力・説明する力を鍛えているか。
6. それでも「人に教えると覚えやすい」理由
定着率90%という数字は疑わしいとしても、「人に教えると覚えやすい」という経験則には一定の合理性があります。
人に説明しようとすると、頭の中で次の作業が起こるからです。
- 重要な情報を選ぶ
- 話す順番を整理する
- 自分の言葉に言い換える
- 具体例を考える
- 相手の質問に答える
- わかっていない部分に気づく
これは、ただ眺めるだけの学習よりも深い処理になりやすいです。
学習科学では、こうした考え方は「learning by teaching」と呼ばれることがあります。J-STAGEに掲載されているA role hypothesis for learning by teachingでも、教える役割を担うことで学習が促される可能性が整理されています。
ただし、注意点もあります。
「人に教える」といっても、ノートをそのまま読み上げるだけでは効果は限定的です。大切なのは、何も見ずに思い出し、自分の言葉で説明し、相手の反応や質問を通じて修正することです。
| 学習行動 | 定着しやすさ |
|---|---|
| 教科書をそのまま音読する | 低い |
| ノートを丸暗記して読み上げる | 低〜中 |
| 要点を何も見ずに説明する | 中〜高 |
| 質問に答えながら説明する | 高い |
| 間違いを直して再説明する | 高い |
効果を生むのは、「教えた」という事実ではありません。説明するために、知識を取り出し、整理し、再構成することです。
7. 本当に根拠が強い学習法
数字付きの図よりも重視したいのは、認知心理学で比較的支持されている学習法です。
特に重要なのは、次の3つです。
| 学習法 | 内容 | 使い方 |
|---|---|---|
| 検索練習 | 答えを見ずに思い出す | 小テスト、白紙再現、暗唱 |
| 分散学習 | 時間を空けて復習する | 翌日、3日後、1週間後に再確認 |
| 自己説明 | なぜそうなるかを説明する | 解答理由、誤答理由を言語化 |
Dunloskyらのレビューでは、複数の学習テクニックの中で、practice testing(練習テスト)とdistributed practice(分散学習)が特に有用性の高い方法として評価されています。詳しくはImproving Students' Learning With Effective Learning Techniquesが参考になります。
また、RoedigerとKarpickeの研究では、テストは単なる評価ではなく、その後の記憶保持を高める学習行為でもあると示されています。詳しくはTest-Enhanced Learningで確認できます。
大学のSTEM教育を対象にしたFreemanらのメタ分析でも、能動的な学習を取り入れた授業は、従来型講義より試験成績や不合格率の面で有利な結果を示しました。詳しくはActive learning increases student performance in science, engineering, and mathematicsが参考になります。
ここからわかるのは、次のことです。
効果があるのは「活動しているように見える学習」ではなく、頭の中で思い出し、比較し、説明し、修正する学習。
グループ討論や人に教える学習も、この条件を満たせば効果的です。逆に、ただ雑談しただけ、相手の説明を聞いただけ、答えを写しただけでは、能動的に見えても定着しにくいことがあります。
8. TOEIC・資格・受験でどう使うか
実際の勉強では、「インプットを減らす」のではなく、インプットの後に必ずアウトプットを入れるのが現実的です。
たとえばTOEICの単語学習なら、次のように進めます。
| ステップ | やること |
|---|---|
| 1 | 10〜20語だけ確認する |
| 2 | 日本語訳を隠して意味を思い出す |
| 3 | 例文の中で使い方を見る |
| 4 | その単語を使って短い文を作る |
| 5 | 「この単語はどういう場面で使うか」を説明する |
| 6 | 翌日・3日後・1週間後に再テストする |
資格試験なら、用語を覚えるだけでなく、次の問いを使うと理解が深まります。
- この制度を一言で説明すると?
- 似た用語との違いは?
- なぜこの選択肢は誤りなのか?
- 実務ではどんな場面で使うのか?
- 自分が間違えやすいポイントはどこか?
受験勉強でも同じです。歴史なら「出来事の順番を説明する」、化学なら「なぜその反応が起こるかを説明する」、数学なら「なぜその解法を選ぶのかを説明する」ことが、理解の確認になります。
学習効果を高める流れは、次のように整理できます。
短く学ぶ
→ 答えを見ずに思い出す
→ 問題を解く
→ 間違えた理由を書く
→ 自分の言葉で説明する
→ 時間を空けて再テストする
この流れを作れば、「読んだだけ」「見ただけ」で終わりにくくなります。
英会話・TOEIC・資格学習などで、日々の学習を短く継続したい場合は、完全無料で利用でき、学習行動がユーザーに還元される共益型プラットフォームのDailyDropsも選択肢の一つになります。大切なのは、教材を増やすことではなく、思い出す・解く・続ける機会を生活の中に組み込むことです。
9. 誤用しないための注意点
この図を学習に活かすなら、次の誤解を避ける必要があります。
| 誤解 | 正しい見方 |
|---|---|
| 講義は意味がない | 初学者には全体像をつかむうえで有効 |
| 読書は効率が悪い | 読んだ後に思い出せば強力な学習になる |
| 討論すれば必ず覚える | 目的のない雑談では効果が弱い |
| 人に教えれば何でも定着する | 誤った説明を続けると誤解が固定される |
| アウトプットだけでよい | 正しいインプットがないと説明の質が落ちる |
特に初心者は、最初からアウトプットだけで学ぼうとすると危険です。基礎知識がない状態では、何が重要で、何が誤りかを判断しにくいからです。
おすすめは、次の順番です。
- まず短くインプットする
- すぐに思い出す
- 問題を解く
- 間違えた理由を確認する
- 自分の言葉で説明する
- 時間を空けて復習する
講義や読書を否定する必要はありません。むしろ、良いインプットがあるからこそ、質の高いアウトプットができます。
10. 1人でもできる「教えるつもり学習」
人に説明する相手がいなくても、教える学習はできます。
重要なのは、実際に相手がいるかどうかではなく、説明できる状態まで理解を深めることです。
次のテンプレートを使うと、1人でも実践できます。
| タイミング | やること | 目安時間 |
|---|---|---|
| 学習直後 | 何も見ずに要点を3つ書く | 3分 |
| 問題演習後 | 間違えた理由を1文で書く | 3分 |
| その日の終わり | 友人に説明するつもりで声に出す | 5分 |
| 翌日 | 昨日の内容を白紙に再現する | 5分 |
| 週末 | 重要ポイントを1枚にまとめる | 10分 |
特におすすめなのは、「間違えた理由」を書くことです。
たとえば英語なら、
- 単語の意味を取り違えた
- 文型を見落とした
- 時制を確認しなかった
- 選択肢を雰囲気で選んだ
というように、ミスの原因を言語化します。
数学なら、
- 公式の使いどころを間違えた
- 条件を読み落とした
- 符号を途中で間違えた
- 解法を覚えているだけで理由を理解していなかった
という形で書きます。
この作業は地味ですが、次に同じミスをしたときに気づきやすくなります。
11. FAQ
Q. ラーニングピラミッドは完全に嘘ですか?
完全に嘘というより、定着率の数字を科学的な測定値として扱うのが不適切です。受け身の学習だけに偏らないという考え方は参考になりますが、5%や90%という数字はそのまま信じない方がよいです。
Q. 「人に教えると90%定着」は本当ですか?
90%という数字に確かな根拠があるとは言いにくいです。ただし、人に教えるつもりで思い出し、整理し、説明する学習は効果的になりやすいです。
Q. 出典はどこですか?
NTLやエドガー・デールの名前と一緒に紹介されることがあります。しかし、デールの元のモデルは定着率を数値化したものではありません。現在広く流通している割合付きの図は、出典や測定方法が不明確です。
Q. 文部科学省が認めているのですか?
文部科学省は「主体的・対話的で深い学び」を重視していますが、「講義5%、読書10%、教える90%」という定着率を公式に認めているわけではありません。
Q. 講義や読書は効率が悪いのですか?
いいえ。講義や読書は、初学者が全体像をつかむうえで有効です。問題は、聞くだけ・読むだけで終わることです。学んだ後に思い出す、問題を解く、説明することで効果が高まります。
Q. アクティブラーニングなら何でも効果がありますか?
いいえ。活動しているように見えても、頭の中で深く考えていなければ効果は限定的です。大切なのは、思い出す、比較する、説明する、間違いを修正することです。
Q. 一番おすすめの勉強法は何ですか?
短いインプットの後に、答えを見ずに思い出し、問題を解き、間違えた理由を説明する方法です。さらに翌日・数日後に復習すると、長期記憶に残りやすくなります。
12. まとめ:数字ではなく、学習行動を変える
「講義5%、読書10%、人に教える90%」という数字は、厳密な科学的根拠として扱うべきではありません。学習方法ごとの定着率を、あのように単純な割合で断定するのは無理があります。
しかし、そこから学べることはあります。
受け身で聞くだけ、読むだけの学習に偏ると、理解したつもりになりやすい。だからこそ、思い出す、問題を解く、自分の言葉で説明する、間違いを直す、時間を空けて復習することが大切です。
最後に、今日から変えられる行動をまとめます。
| やめたい学習 | 変えたい学習 |
|---|---|
| 動画を見て終わり | 見た後に要点を3つ思い出す |
| 参考書を読んで終わり | 章末問題を解いて説明する |
| 単語帳を眺める | 意味を隠してテストする |
| 間違いを放置する | なぜ間違えたか1文で書く |
| 休日にまとめて勉強する | 短時間でも間隔を空けて復習する |
大切なのは、「90%」という数字を信じることではありません。
自分の勉強を、少しでも思い出す・使う・説明する方向へ変えることです。
今日学んだ内容を、今すぐ1分だけでいいので、何も見ずに説明してみてください。言葉に詰まったところが、次に伸ばすべきポイントです。