子供の鼠径ヘルニア(脱腸)の症状は?足の付け根のしこりと緊急受診の目安
結論からいうと、子どもの足の付け根に出たり消えたりする膨らみがあれば、痛みがなくても早めに小児外科へ相談する必要があります。 鼠径ヘルニアは、自然に治ることを期待して長く様子を見る病気ではなく、基本的には手術で治療します。
特に、膨らみが硬い・赤い・強く痛がる・元に戻らない状態や、嘔吐、腹部の張り、ぐったりした様子を伴う場合は、腸や卵巣が締め付けられる「嵌頓(かんとん)」の可能性があります。夜間や休日でも救急受診を優先してください。
| 子どもの様子 | 受診の目安 |
|---|---|
| 膨らみが柔らかく、自然に引っ込み、痛がらない | 写真や動画を残し、早めに小児外科を予約する |
| いつもより戻りにくい、不機嫌が続く、触ると嫌がる | 速やかに医療機関へ連絡して指示を受ける |
| 硬い、赤い、強く痛がる、戻らない、繰り返し吐く | 夜間・休日でも救急外来を受診する |
| ぐったりして反応が悪い、呼吸がおかしい、顔色が著しく悪い | 119番へ連絡する |
1. 足の付け根が膨らむのはなぜ?
鼠径(そけい)とは、下腹部と太ももの境目にある「足の付け根」の部分です。ヘルニアは、臓器や組織が本来の場所から隙間を通って外側へ出る状態を指します。
胎児の時期には、お腹の中と鼠径部をつなぐ袋状の通り道があります。男の子では精巣が陰嚢へ移動する過程に関係し、女の子にも子宮を支える組織に沿った通り道があります。通常は出生前後に閉じますが、閉じずに残ると、そこへ腸や脂肪組織、卵巣などが入り込むことがあります。
お腹の中
↓
閉じ残った袋状の通り道
↓
足の付け根が膨らむ
↓
男の子では陰嚢、女の子では大陰唇まで腫れることがある
日本ヘルニア学会によると、小児の鼠径ヘルニアは100人に2〜5人程度にみられ、約1割は両側に生じます。小児外科で扱う代表的な病気の一つですが、嵌頓がいつ起こるかを家庭で予測することはできません。
成人では加齢などによる腹壁の弱さが原因になることがありますが、小児では生まれつき通り道が残っていることが主な原因です。抱き方、泣かせたこと、運動、育て方が原因で起こるわけではありません。
2. よくある症状と膨らみ方
典型的なのは、次のような場面で現れる柔らかい膨らみです。
- 大きな声で泣いたとき
- せきをしたとき
- 排便でいきんだとき
- 立ったり歩いたりしたとき
- 入浴して体が温まったとき
- 活発に遊んだあと
横になって落ち着いたり、眠ったりすると、膨らみが自然に消えることがあります。出たり消えたりするため、診察時には見えないことも珍しくありません。
男の子では足の付け根から陰嚢にかけて、女の子では足の付け根から大陰唇にかけて腫れる場合があります。右だけ、左だけ、両側のいずれもあり得ます。
| 観察する点 | 通常時に多い様子 | 嵌頓が疑われる変化 |
|---|---|---|
| 硬さ | 柔らかい | 硬く張っている |
| 出方 | 出たり引っ込んだりする | 出たまま戻らない |
| 痛み | 痛がらないことが多い | 触れると激しく泣く |
| 皮膚の色 | 普段と変わらない | 赤い、暗い紫色に見える |
| 機嫌 | 普段どおり | 激しく泣く、ぐったりする |
| 消化器症状 | 通常はない | 嘔吐、腹部膨満、血便など |
膨らみが自然に消えても、通り道そのものが閉じたとは限りません。「今は引っ込んでいるから治った」と判断せず、外来を受診してください。
3. 夜間でも救急受診が必要な嵌頓とは
嵌頓は、飛び出した腸などが狭い出口にはまり、腹腔内へ戻れなくなった状態です。締め付けが続くと血流が悪くなり、腸閉塞や腸管の壊死につながることがあります。
女の子では、腸だけでなく卵巣が入り込むことがあります。卵巣の血流が妨げられたり、ねじれたりする可能性があるため、足の付け根に硬いしこりが触れる場合は、痛みが目立たなくても早めの評価が必要です。
次の症状があれば、診療時間まで待たないでください。
- 膨らみが出たまま戻らない
- しこりが硬く、張っている
- 腫れた部分が赤い、紫色っぽい
- 突然激しく泣き始め、あやしても落ち着かない
- 触ろうとすると強く嫌がる
- 嘔吐を繰り返す
- 緑色の液を吐く
- お腹が膨れている
- 便やおならが出にくい
- 顔色が悪い、ぐったりしている
- 血便が出る
「泣いているから膨らんだだけ」と決めつけないことが重要です。
硬く戻らない腫れと、いつもと違う泣き方や嘔吐が同時にみられる場合は、嵌頓を疑います。
家庭で何度も強く押し込むと、痛みを強めたり、血流が悪くなった臓器を傷つけたりするおそれがあります。医療者から具体的な指示を受けている場合を除き、無理に戻そうとせず受診してください。
4. 膨らみを見つけたときにすること
痛みがなく、膨らみが自然に引っ込む場合は、慌てて救急車を呼ぶ必要は通常ありません。ただし、次の手順で早めに受診準備を進めます。
- 膨らんだ場所が右・左・両側のどこかを確認する
- 出た時刻と、泣いた後などのきっかけを記録する
- 左右が分かるよう写真や短い動画を撮る
- 痛み、嘔吐、腹部の張りがないか確認する
- 小児外科、またはかかりつけの小児科へ連絡する
写真を撮る場合は、全身との位置関係が分かる写真と、膨らみが分かる写真があると伝わりやすくなります。撮影に時間をかけたり、膨らませるために意図的に泣かせたりする必要はありません。
診察時に膨らみが消えていても、写真、動画、症状の経過から診断の手掛かりを得られます。緊急症状がある場合は、記録より受診を優先してください。
5. 何科を受診すればよい?
第一の相談先は小児外科です。小児の鼠径ヘルニアは成人のものと原因や手術方法が異なるため、子どもの解剖や全身管理に慣れた医師による診察が適しています。
近隣に小児外科があるか分からない場合は、かかりつけの小児科へ相談して紹介を受ける方法があります。日本小児外科学会の認定施設も、医療機関を探す際の参考になります。
休日や夜間に受診すべきか迷い、明らかな緊急症状がない場合は、厚生労働省の子ども医療電話相談「#8000」を利用できます。対応時間は都道府県によって異なります。
ただし、膨らみが硬い、戻らない、強く痛がる、吐く、ぐったりしている場合は、電話相談だけで長く様子を見ず、救急受診を優先してください。
6. 診察と検査では何を確認する?
多くは、症状の経過、視診、触診から判断します。医師は、膨らむ位置、左右、硬さ、陰嚢や大陰唇まで腫れていないかなどを確認します。
受診時には次の情報が役立ちます。
- 初めて膨らみに気づいた日
- どのような場面で出るか
- 横になると自然に消えるか
- 痛がることがあるか
- 嘔吐や便通の変化があるか
- 過去に戻らなくなったことがあるか
- 出生週数と出生体重
- 持病、服薬、アレルギー
- 撮影した写真や動画
診察だけでは判断しにくい場合や、別の病気との区別が必要な場合には、超音波検査が行われることがあります。ただし、典型的な膨らみ方が確認できれば、必ず画像検査をするとは限りません。
7. 自然に治る?放置しても大丈夫?
新生児期に自然に閉じる例はあるとされていますが、頻度は高くありません。症状がある場合は、自然治癒を期待して家庭の判断で長期間待つのではなく、小児外科で治療方針を相談します。
日本小児外科学会も、自然に治ることを過度に期待して手術時期を遅らせないよう説明しています。嵌頓症状がある場合は、月齢が低くても早期の治療が必要になることがあります。
腹帯、ベルト、テープ、マッサージ、体操、薬によって、開いた通り道を閉じることはできません。膨らみが小さいことや痛みがないことも、将来嵌頓しない保証にはなりません。
臍ヘルニア、いわゆる「でべそ」は成長とともに自然に閉じることが多く、鼠径部に起こるものとは経過や治療方針が異なります。どちらも「ヘルニア」という名前ですが、同じ感覚で様子を見ないことが大切です。
8. 手術はどのように行う?
治療の基本は、閉じずに残った袋状の通り道を根元で閉じる手術です。小児では腹壁そのものが弱いわけではないため、成人の手術で使われることがある人工メッシュによる補強は、通常必要ありません。
主な方法は2つあります。
| 方法 | 手術の概要 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 鼠径部切開法 | 足の付け根を小さく切開し、袋を根元で閉じる | 長く行われてきた方法 |
| 腹腔鏡下手術(LPEC法など) | おへそ付近からカメラを入れ、腹腔側から出口を糸で閉じる | 反対側の状態を確認できる場合がある |
どちらも通常は全身麻酔で行います。手術法は、年齢、体格、片側か両側か、嵌頓歴、持病、施設の経験などを踏まえて選ばれます。
両術式とも、開いた通り道を閉じるという治療の基本は同じです。詳しい違いは、日本ヘルニア学会の小児鼠径ヘルニアの治療方法で確認できます。
日帰りで行う施設もあれば、1泊以上入院する施設もあります。月齢が低い子、早産で生まれた子、呼吸や心臓などの持病がある子では、術後の観察を慎重に行うため入院が必要になることがあります。
9. 手術はいつ受ける?
緊急症状がなければ、多くは予定手術として行われます。ただし、適切な時期は全員同じではありません。
- 月齢と体重
- 膨らみの出る頻度
- 戻りにくくなった経験
- 嵌頓したことがあるか
- 早産や基礎疾患の有無
- 予防接種や園・学校の予定
- 医療機関の治療方針
こうした条件を踏まえ、小児外科医と相談して決めます。戻りにくいことがある、嵌頓したことがあるなど危険性が高い場合は、早い時期の治療が検討されます。
手術を待つ間、泣かせないように生活を厳しく制限したり、通常の遊びを全面的に禁止したりする必要は一般にはありません。泣くことや運動は膨らみが出るきっかけにはなりますが、通り道を新たに作る原因ではありません。個別に運動制限を指示された場合は、主治医の説明に従ってください。
10. 似たしこりや腫れとの違い
足の付け根や陰嚢の腫れが、すべて同じ病気とは限りません。
| 病気・状態 | よくある特徴 | 注意点 |
|---|---|---|
| 陰嚢水腫・精索水腫 | 陰嚢や鼠径部に液体がたまり、痛みが少ない | 鼠径ヘルニアを合併することがある |
| Nuck管水腫 | 女の子の足の付け根や大陰唇が腫れる | 卵巣を含むヘルニアとの区別が必要 |
| リンパ節の腫れ | 小さなしこりを複数触れることがある | 発熱、赤み、痛みを伴うことがある |
| 停留精巣・移動性精巣 | 陰嚢内に精巣を触れにくい | 小児外科や小児泌尿器科で評価する |
| 精巣捻転 | 突然の強い陰嚢痛、腫れ、嘔吐 | 時間が重要な救急疾患 |
| 皮膚や皮下組織の感染 | 赤く熱を持ち、押すと痛い | 発熱を伴う場合がある |
特に男の子の突然の陰嚢痛は、嵌頓だけでなく精巣捻転の可能性もあります。家庭で見分けることは難しいため、急な強い痛みや腫れがあれば、すぐに受診してください。
11. よくある質問
写真だけで診断できますか?
写真は重要な手掛かりになりますが、写真だけで確定診断はできません。膨らみが出る状況や全身症状を伝え、診察を受けてください。
痛くない場合も受診が必要ですか?
必要です。痛みがなく、自然に引っ込むのはよくある状態です。痛みが出るまで待つのではなく、予定手術を含めた治療方針を相談します。
オムツ交換や入浴時だけ膨らみます
腹圧がかかったときや体が温まったときだけ目立つことがあります。消えても異常がないとは限らないため、可能なら撮影して受診してください。
男の子だけに起こりますか?
女の子にも起こります。女の子では卵巣が入り込むことがあり、足の付け根や大陰唇に硬いしこりとして現れる場合があります。
左右両方にできますか?
片側だけでなく両側に生じることもあります。片側の診断後に反対側が膨らむ場合もあるため、新たな腫れに気づいたら主治医へ伝えてください。
泣かせない方がよいですか?
泣くと膨らみが目立ちますが、泣かせたことが原因ではありません。泣かせないよう過度に神経質になるより、硬さ、色、自然に戻るか、嘔吐がないかを観察することが重要です。
便秘を治せば治りますか?
便秘でいきむと膨らみが出やすくなることはありますが、便秘を改善しても開いた通り道は閉じません。便秘は別途治療しつつ、小児外科で相談してください。
手術後に再び膨らむことはありますか?
再発は多くありませんが、可能性がゼロではありません。術後に同じ場所が繰り返し膨らむ、強く腫れる、痛みが続く場合は、手術を受けた医療機関へ連絡してください。
12. まとめ
足の付け根に出たり消えたりする膨らみは、子どもの鼠径ヘルニアでよくみられる症状です。柔らかく自然に消える場合でも放置せず、写真や動画を残して小児外科へ相談してください。
判断のポイントは次のとおりです。
- 柔らかく、痛がらず、自然に戻る:早めに外来を受診する
- 以前より戻りにくい、不機嫌が続く:速やかに医療機関へ相談する
- 硬い、赤い、強く痛がる、戻らない:夜間・休日でも救急受診する
- 嘔吐、腹部膨満、ぐったりした様子を伴う:受診を急ぐ
- 家庭で強く押し戻さない:医療機関で状態を確認してもらう
- 自然治癒を前提に長く待たない:手術の必要性と時期を相談する
症状は出たり消えたりするため、家族が見た膨らみの記録が診断に役立ちます。普段の膨らみ方と危険な変化の違いを知り、緊急サインがあれば時間帯を問わず行動してください。
※症状や治療時期は、年齢、体格、早産の有無、持病などによって異なります。個別の診断や治療方針は、小児外科医の診察を受けて決めてください。