将棋の駒はなぜ五角形?敵味方が向きでわかる理由と起源の謎
将棋の駒が山形の五辺形をしている最大の利点は、尖った側を見るだけで敵味方と前方が分かることです。相手から取った駒も、向きを反対にして自分の戦力として使えます。
ただし、歴史上も「持ち駒を再利用するためにこの形が考案された」とは限りません。平安時代の出土駒にも現在へつながる形が見られる一方、持ち駒制度が成立した時期はそれより後と考えられているからです。
形の合理性は明確ですが、最初にその形が生まれた理由は確定していません。
実用上の意味と歴史的な起源を分けると、将棋駒の形を正確に理解できます。
1. 将棋駒の形が持つ3つの役割
一般的な駒を正面から見ると、上部が尖り、下部が広くなっています。数学的に辺と角がすべて等しい「正五角形」ではなく、方向を示す先端を持った五辺形です。
相手側
▲
/ \
| |
| |
└───┘
自分側
この輪郭には、主に3つの役割があります。
- どちらの対局者に属する駒かを示す
- その駒にとっての前方を示す
- 漢字を書ける広い面と、置きやすい底辺を確保する
四角い札でも文字は書けますが、180度回転させても輪郭が変わらないため、向きだけでは所属を判別できません。三角形なら方向は明確になるものの、文字を書く面や指でつまむ部分が狭くなります。
現在の五辺形は、方向の分かりやすさ、文字の読みやすさ、盤上での安定性を一つの形で両立しています。ただし、これは現代の使い方から見た合理性であり、古代の考案者が同じ条件を意識して設計したと証明されているわけではありません。
2. 同じ色の駒でも向きで敵味方が分かる
将棋では、先手と後手が基本的に同じ木地、同じ文字の駒を使います。盤上に双方の「歩」が並んでも、色では見分けられません。
そこで所属を示すのが、山形の先端です。
| 盤上の状態 | 尖った側の向き | 所属 |
|---|---|---|
| 自分の駒 | 相手側 | 自分 |
| 相手の駒 | 自分側 | 相手 |
| 取った駒を打つとき | 相手側へ向ける | 自分 |
一枚の駒を180度回転させるだけで、どちらの陣営に属するかを変更できます。文字の色を塗り替えたり、別の駒に交換したりする必要はありません。
この仕組みは、文字を読む前にも働きます。盤面を少し離れて見た場合でも、輪郭の向きから駒の勢力を大まかに把握できます。五辺形は装飾ではなく、所属情報を伝える視覚的な記号でもあるのです。
3. 歩・香車・桂馬の「前」も示している
先端は敵味方だけでなく、その駒が進む前方も示します。
日本将棋連盟の対局規則では、歩兵は一マス前、香車は前方へ直進、桂馬は二つ前の斜めへ動くと定められています。これらの駒は、前と後ろを入れ替えると動ける場所が変わります。
| 駒 | 向きが必要な理由 |
|---|---|
| 歩兵 | 先端側へ一マスだけ進む |
| 香車 | 先端側へ何マスでも直進する |
| 桂馬 | 先端側の二段先へ跳ぶ |
| 銀将・金将 | 前方と後方で移動できる範囲が異なる |
飛車や角行の動きは前後対称ですが、どちらの持ち物かを示すため、やはり向きが必要です。
駒の先端
↓
「この側が前」
↓
動ける方向と所属が決まる
色や追加の矢印を使わなくても、駒そのものが進行方向を示します。簡単な形に複数の情報を持たせた、効率のよい設計です。
4. 持ち駒を反対向きで再利用できる
将棋の大きな特徴は、相手から取った駒を自分の持ち駒にし、後の手番で盤上へ打てることです。敵だった歩や金が、取られた瞬間から自分の戦力になります。
五辺形の駒なら、再利用の手順は簡単です。
相手の駒を取る
↓
成駒なら表面へ戻す
↓
自分の持ち駒にする
↓
先端を相手側へ向けて打つ
たとえば相手の歩を取った場合、その駒を自分から見て前向きに置けば、自分の歩として使えます。同じ木片が、向きを変えるだけで所属を変えるわけです。
さらに、将棋駒は二つの方法で異なる情報を表示できます。
| 駒の状態 | 表し方 |
|---|---|
| どちらの陣営か | 先端の向き |
| 成っているか | 表と裏 |
| 何の駒か | 書かれた文字 |
一枚の木片だけで「種類・所属・成否」を区別できるため、持ち駒制度と非常に相性がよい形です。
5. 「持ち駒のために五角形になった」と断定できない理由
機能だけを見れば、「取った駒を再利用するために五角形が採用された」と考えるのは自然です。しかし、歴史的な順序には注意が必要です。
日本将棋連盟が公開している将棋史の解説では、相手から取った駒を自分の駒として打つ制度は、15〜16世紀ごろに始まったと考えられています。その成立理由についても、駒を取り捨てるルールでは勝負がつきにくかったためではないかという「推定」です。
一方、11世紀に近い年代の出土駒には、すでに現在へつながる尖った輪郭が確認されています。
整理すると、次のようになります。
| 確認できること | 確認できないこと |
|---|---|
| 古い出土駒にも方向のある形が見られる | 最初の考案者が誰か |
| 現在の形は所属の表示に便利 | 何を直接の手本にしたか |
| 持ち駒の再利用と極めて相性がよい | 持ち駒だけを目的に作られたか |
形が先にあり、後から持ち駒制度との相性が生かされた可能性があります。反対に、文献に残っていない古い遊び方が影響した可能性も否定できません。
したがって、正確には「持ち駒に便利だからこの形が定着した可能性はあるが、その目的で発明されたとは証明されていない」と表現するのが適切です。
6. 平安時代の出土駒と木簡説
奈良県の興福寺旧境内では、1992年度の発掘調査で、玉将3点、金将4点、銀将1点、桂馬1点、歩兵6点、不明1点の将棋駒が出土しました。
同じ遺構から「天喜六年(1058年)」と書かれた題箋軸や土器も発見されています。奈良県の歴史文化資源データベースは、これらの駒に1058年に近い年代を与え、日本最古の出土事例としています。
文化遺産オンラインの出土駒を見ると、平安時代の駒にも現代の駒を思わせる尖った輪郭があります。少なくとも約千年前には、文字を書いた平たい木片に方向を持たせる形が使われていたことになります。
同じ場所から習書木簡や題箋軸が出ているため、木簡や巻物の題箋など、当時身近だった木製品の材料・加工法が駒づくりに影響したと考える説があります。ただし、同時に出土したことだけで、将棋駒が木簡から直接生まれたとは証明できません。
起源について考えられる見方を整理すると、次の通りです。
- 木片を削る過程で、方向の分かる形が生まれた
- 文字を書きやすい木製の札が駒へ転用された
- 向きを見分けやすかったため、その形が長く残った
- 後に持ち駒制度が成立し、形の利便性がさらに高まった
一つの理由で突然発明されたのではなく、材料、加工法、読みやすさ、ルールの変化が重なって定着した可能性もあります。
7. チェスやシャンチーと形が違うのはなぜ?
将棋と同じく、チェスや中国のシャンチーも二つの陣営が駒を動かす盤上遊戯ですが、敵味方の見分け方は異なります。
| 遊戯 | 主な駒の形 | 敵味方の区別 | 取った駒 |
|---|---|---|---|
| 将棋 | 尖った平駒 | 向き | 自分の駒として再利用できる |
| チェス | 立体駒 | 白・黒などの色 | 通常は盤外へ除く |
| シャンチー | 円形の平駒 | 文字や色 | 通常は盤外へ除く |
チェスの白い駒を黒側が再利用すると、色と所属が食い違ってしまいます。将棋では駒の色を陣営に固定せず、向きを所属の印にすることで、取った駒をそのまま使えます。
また、画面上の将棋でも、駒は五辺形で描かれるのが一般的です。実物の木駒がなくても、向きが盤面の理解を助けるからです。文字や色だけに頼らず、輪郭でも情報を伝えられる点は、現代の表示でも有効です。
8. よくある質問
Q. 正五角形ではないのですか?
一般的な駒は五つの辺を持ちますが、すべての辺や角が等しい正五角形ではありません。底が広く、上に明確な先端を持つ形です。
Q. 四角い駒では遊べませんか?
所属を示す色や印を付ければ遊べます。ただし、四角形は180度回しても輪郭が同じなので、向きだけで敵味方を判断しにくくなります。
Q. 王将と玉将の違いで敵味方を分けているのですか?
王将と玉将の動きや役割は同じです。歩や金など双方が同じ文字の駒も多いため、盤上の所属は王・玉の文字ではなく、駒の向きで判断します。
Q. 成った駒を取ったら、成駒のまま打てますか?
成る前の面へ戻して持ち駒にし、打つときも表面を上にします。盤上で再び成る条件を満たせば、裏返して成駒にできます。
Q. 五角形の起源には定説がありますか?
向きの識別に便利であることは明確ですが、形の直接的な起源を示す決定的な史料はありません。木簡などの木製品との関係や、加工しやすさなど複数の見方があります。
9. まとめ
将棋駒の尖った五辺形には、次の利点があります。
- 先端の向きで敵味方を区別できる
- 歩や香車などの前方を示せる
- 取った駒を反対向きにして再利用できる
- 表裏で成否、向きで所属を表示できる
- 文字を書く面と、盤上での安定性を確保できる
特に、相手の駒を自分の持ち駒として使えるルールとは抜群に相性がよい形です。
ただし、平安時代の出土駒にも尖った輪郭が見られ、現在の持ち駒制度はそれより後に成立したと考えられています。したがって、再利用のためだけに発明されたと断定することはできません。
約千年前から使われてきた形が、現在の盤上や画面上でも敵味方・前方・成否を分かりやすく伝えています。将棋駒の輪郭は、長い歴史の中でルールと結びつき、洗練されてきた情報デザインと見ることができます。