雪を踏むとキュッキュッ音がするのはなぜ?気温と雪質で変わる「鳴き雪」の仕組み
結論からいうと、冷えた雪を踏んだときの高い音は、雪粒同士の結合が壊れ、密集した粒がずれたり、こすれたりすることで生じます。
よく冷えた乾いた雪は、粒の表面に液体の水が少なく、粒同士が滑らかに動きにくい状態です。靴底で強く押されると、小さな破壊と滑りが何度も繰り返され、「キュッキュッ」「ギュッギュッ」という鋭い音になります。
一方、降ったばかりの軽い雪では「サクサク」、粒が大きくなった雪では「ザクザク」、融けかけた雪では「ベチャベチャ」と聞こえやすくなります。
| 雪の状態 | 出やすい音 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| よく冷えた乾いた雪 | キュッキュッ | 細かな粒の破壊や滑りが起こる |
| 降ったばかりの軽い雪 | サクサク | 結晶がつぶれ、空気が抜ける |
| 粒が大きくなった雪 | ザクザク | 粗い粒や硬い層が割れる |
| 再凍結した雪 | ガリガリ | 表面の氷膜や硬い雪塊が削れる |
| 融けかけた湿った雪 | ベチャベチャ | 水を含んだ粒が押し固められる |
ただし、雪の音だけで気温や路面の安全性を正確に判断することはできません。音は、気温だけでなく、雪粒の大きさ、降ってからの時間、日射、風、踏み固められ方、靴底の材質などでも変わります。
1. 雪を踏んだときの音はどこから出る?
積もった雪は、氷の板のような一枚の固体ではありません。小さな氷の粒が接触し、その間に多くの空気を含んだ構造をしています。
時間がたった雪では、隣り合う粒の接点に小さな結合ができます。そこへ人の体重が加わると、雪の内部では次の変化がほぼ同時に起こります。
- 雪の結晶や粒同士の結合が壊れる
- 粒の隙間が減り、雪が圧縮される
- 粒が押しのけられて並び方が変わる
- 密集した部分がずれ、粒同士がこすれる
- 小さな振動が空気や雪を伝わって耳に届く
流れを簡単に示すと、次のようになります。
靴底から圧力が加わる
↓
粒同士の結合が壊れる
↓
雪が局所的に押し固められる
↓
密集した粒がずれて滑る
↓
細かな振動が連続して発生する
↓
キュッキュッという音に聞こえる
つまり、鳴き声の正体を「雪粒がこすれる摩擦音だけ」と考えるのは十分ではありません。結合の破壊、圧縮、粒の移動、滑りが組み合わさった音と考えるほうが実際の現象に近くなります。
2. 実験でわかった「破壊と滑り」の関係
北海道大学低温科学研究所の鳴き雪実験では、容器に詰めた雪へ円柱状の棒を一定速度で押し込み、棒にかかる力と発生する音が同時に測定されました。
紹介されている実験条件の一例は、次のとおりです。
| 条件 | 数値 |
|---|---|
| 雪の温度 | マイナス20℃ |
| 雪の密度 | 1立方メートル当たり450kg |
| 棒の太さ | 3cm |
| 押し込む速さ | 1秒当たり15mm |
棒を押し込んだときの抵抗力は、滑らかに増え続けるのではなく、ゆっくり増えた後に急激に低下する動きを繰り返しました。記録された主な音は、この抵抗力が急に低下するタイミングで発生しています。
この結果から、雪の内部では次の現象が繰り返されていると考えられています。
- 雪粒同士をつなぐ結合が壊れる
- 押し固められた高密度の部分ができる
- その部分がせん断され、急に滑る
- 再び抵抗が増え、また滑る
靴で雪を踏んだ場合も、足の下で同じような小さな破壊と滑りが連続して起こります。一つ一つの振動は短くても、大量に重なることで、はっきりした踏み音として聞こえます。
3. 気温が低いほどキュッキュッ鳴りやすい理由
低温の雪が鳴きやすいのは、雪粒の表面にある水分が少なくなり、粒が乾いた状態になるためです。
0℃に近い湿った雪では、粒の表面にある水が粒同士を滑りやすくします。動きが滑らかになると、鋭い振動が生じにくくなり、高い音も目立ちにくくなります。
反対に、よく冷えた雪では液体の水が少なく、粒同士が引っかかりやすくなります。踏みつけられた粒は少しずつ滑るのではなく、抵抗した後に急に壊れたり、ずれたりします。この急激な動きが、高く短い音につながります。
中谷宇吉郎 雪の科学館の解説でも、気温が非常に低く、細かな雪粒が硬く積もった状態では、粒同士がこすれて高い音が出ると説明されています。
低温になること自体が音を作るのではなく、低温によって雪粒の硬さや水分量、滑り方が変わることが重要です。
4. 鳴き雪は何℃くらいから聞こえる?
「気温が何℃になったら鳴く」という明確な境界はありません。
氷点下10℃前後が目安として紹介されることもありますが、すべての雪が同じ温度で鳴き始めるわけではありません。外気温が比較的高くても、雪面が十分に冷えて乾いていれば音が出ることがあります。反対に、気温が低くても、降ったばかりで非常に柔らかい雪では音が小さい場合があります。
鳴きやすさを決める主な条件は次のとおりです。
- 雪そのものの温度
- 粒の表面にある水分
- 雪粒の大きさと硬さ
- 雪が積もってからの時間
- 日中に融けたかどうか
- 融けた後に再凍結したか
- 風や人によって締め固められたか
温度は重要な条件ですが、温度だけが原因ではありません。
たとえば、同じマイナス5℃でも、前日から乾いたままの雪と、昼間に融けて夜に凍り直した雪では、粒の形や硬さが異なります。前者はキュッキュッ、後者はガリガリと聞こえる可能性があります。
音から「かなり冷えている」と推測することはできますが、正確な気温を知るには温度計や気象情報が必要です。
5. サクサク・ザクザク・キュッキュッの違い
雪の踏み音には厳密な分類があるわけではなく、表現にも個人差があります。それでも、音と雪質には一定の関係が見られます。
日本雪氷学会北海道支部の解説でも、踏み音は雪の種類や温度だけでなく、履物や踏み方によって変わり、「ザックザック」「サクッサクッ」「キュッキュッ」などの表現が生まれるとされています。
サクサク
降ったばかりの軽い新雪で聞こえやすい音です。枝分かれした結晶がつぶれ、雪の隙間にある空気が抜けることで、柔らかく軽い音になります。
ただし、非常にふんわりと積もった雪は、足を置いても大きな抵抗が生じないため、ほとんど音がしない場合もあります。
キュッキュッ
よく冷えた細かな乾雪で出やすい音です。粒同士が引っかかり、結合の破壊と滑りを繰り返すことで、高く締まった音になります。
雪を手袋越しに強く握ったときにも、同じような音がすることがあります。
ギュッギュッ
ある程度踏み固められた乾いた雪で聞こえやすい音です。キュッキュッより低く、雪が強く圧縮される感触を伴うことがあります。
ザクザク
粒が大きくなったざらめ雪や、少し硬くなった雪で出やすい音です。粗い粒や硬い部分が割れ、互いに動くことで、粒の大きさを感じるような音になります。
ガリガリ
日中に融けた雪が夜間に再凍結し、表面に氷の膜や硬い層ができたときに出やすい音です。新雪が鳴いているのではなく、硬い雪や氷が割れたり削れたりしています。
ベチャベチャ
0℃に近い、水分の多い雪で聞こえやすい音です。粒同士の乾いた摩擦音よりも、水を含んだ雪が押しつぶされる音が目立ちます。
6. 同じ場所でも朝と昼で音が変わるのはなぜ?
積もった雪は、降ったときの結晶の形をそのまま保つわけではありません。時間の経過とともに、粒が丸くなったり、大きくなったり、隣の粒と結合したりします。
晴れた冬の日には、同じ場所でも次のような変化が起こることがあります。
| 時間帯 | 雪の変化 | 音の例 |
|---|---|---|
| 早朝 | 夜間に冷え、表面が乾いて硬くなる | キュッキュッ |
| 午前 | 日射で雪面が温まり始める | サクサク、ギュッギュッ |
| 昼 | 水分が増え、粒が大きくまとまる | ザクザク |
| 夕方 | 融けた雪が再び冷え始める | ガリガリ |
| 翌朝 | 表面に硬い凍結層ができる | バリバリ、ガリガリ |
雪の音を左右するのは気温だけではありません。
- 日射:空気が寒くても、直射日光で雪面が温まる
- 風:結晶が砕かれ、風圧で硬く締まる
- 人や車:何度も踏まれることで密度が高くなる
- 地面からの熱:積雪の下側から融けることがある
- 靴底の材質:硬さや溝の形によって振動が変わる
- 歩き方:真下に踏むか、ひねるかでも音が変わる
そのため、同じ日に同じ場所を歩いても、朝と昼では足音が変わります。鳴き方の変化は、目ではわかりにくい雪粒の状態が変化した手がかりになります。
7. 小麦粉の袋を押しても似た音がする理由
袋に入った小麦粉や片栗粉を押すと、キュッキュッと高い音がすることがあります。
雪と小麦粉は異なる物質ですが、どちらも細かな粒が大量に集まった粒状体という共通点があります。
乾いた細粒へ圧力を加えると、次の現象が起こります。
- 粒同士が強く接触する
- 粒が引っかかりながら移動する
- 粒の並び方が急に変わる
- 多数の小さな摩擦振動が発生する
小麦粉では細かな粉の粒が、雪では細かな氷の粒が動きます。特に冷えた乾雪は粒の表面に水が少ないため、粉を押したときに近い高い音が出やすくなります。
乾いた砂浜を歩いたときにザクザク音がし、濡れた砂では音が小さくなりやすいのも似た現象です。粒の間に水が入ると動き方が変わり、乾いた粒同士が直接こすれる振動が目立ちにくくなります。
ただし、雪では摩擦だけでなく、氷粒同士の結合が壊れる現象も起きます。小麦粉と完全に同じ仕組みではなく、粒状体として似た部分があると理解するのが適切です。
8. 鳴き雪についてのよくある質問
Q. 北海道の雪だけがキュッキュッ鳴るのですか?
北海道だけの現象ではありません。地域名ではなく、低温で乾いた細かな雪が積もるかどうかによって決まります。東北、北陸、甲信越、山間部、スキー場などでも条件がそろえば聞くことができます。
北海道の内陸部などでは、低温で乾いた雪ができやすいため、経験する機会が多くなります。
Q. 新雪と踏み固められた雪では、どちらが鳴きやすいですか?
どちらも鳴く可能性がありますが、音の種類が異なります。
降ったばかりの軽い新雪はサクサク、細かな乾雪が少し締まった状態ではキュッキュッ、強く圧縮された雪ではギュッギュッと聞こえやすくなります。
ただし、非常に柔らかい新雪は抵抗が小さく、あまり音が出ないこともあります。
Q. 雪玉を作りにくい雪ほど鳴きやすいですか?
その傾向があります。
低温の乾雪は、粒同士を接着させる液体の水が少ないため、手で握ってもまとまりにくくなります。同時に、乾いた粒同士の破壊や滑りが起こりやすいため、高い音が出やすくなります。
反対に、0℃に近い湿った雪は雪玉を作りやすいものの、キュッキュッという鋭い音は出にくくなります。
Q. キュッキュッ鳴る雪は滑りにくいですか?
音だけでは判断できません。
乾いた新雪は比較的足がかりを得やすい場合がありますが、その下に圧雪や透明な氷が隠れていることがあります。橋の上、日陰、交差点、駐車場の出入り口では、表面の雪が鳴いていても滑る可能性があります。
雪の音は雪質を知る手がかりにはなりますが、路面の安全を保証するものではありません。
Q. 雪が降ると静かになる現象と同じですか?
別の現象です。
踏み音は、足元で雪粒が壊れたり滑ったりすることで、新しい音が発生する現象です。一方、雪が積もると周囲が静かに感じられるのは、柔らかな新雪が音を吸収・散乱しやすいためです。
鳴き雪は「雪から音が出る仕組み」、降雪後の静けさは「周囲の音が伝わる仕組み」に関係しています。
9. まとめ
雪道のキュッキュッ音は、冷たい空気そのものが鳴っているわけではありません。足の下で雪粒の結合が壊れ、押し固められた粒がずれたり、滑ったりするときに発生する振動です。
要点を整理すると、次のようになります。
- 低温の乾雪は粒の表面に水が少なく、引っかかりやすい
- 靴底の圧力で粒同士の結合が壊れる
- 押し固められた部分が急にずれ、滑る
- 小さな破壊と滑りが繰り返されることで高い音になる
- 新雪、ざらめ雪、湿雪では粒の状態が違うため音も変わる
- 気温だけでなく、日射、風、経過時間、靴底も関係する
- 鳴き声から気温や路面の安全性を正確に判断することはできない
雪道を歩く機会があれば、足音だけでなく、雪の沈み方、粒の細かさ、雪玉の作りやすさにも注目してみてください。
朝はキュッキュッ、昼はザクザク、夕方はガリガリと変わることがあります。足元から聞こえる音は、雪粒がその瞬間にどのような状態にあるのかを伝える、小さな手がかりです。