皆既月食はなぜ赤くなる?ブラッドムーンの仕組みと赤銅色の理由
皆既月食で月が赤く見えるのは、地球の大気を通り抜けた赤い太陽光が、地球の影の中にある月を照らすためです。
太陽の光が地球に完全に遮られても、大気を通った光の一部は屈折して地球の背後へ回り込みます。その途中で青い光の多くが散乱されるため、月面には赤やオレンジの光が届きやすくなります。
この赤い月は「ブラッドムーン」と呼ばれることがありますが、災害や異変の前兆ではありません。太陽・地球・月の位置関係と、地球の大気が持つ性質によって起こる自然現象です。
次の主な観測機会
2026年8月時点で、日本全国から皆既の段階を見られる次の皆既月食は、2029年1月1日に起こる予定です。
その前の2028年7月7日には、日本の多くの地域で部分月食を観察できると予報されています。
1. 皆既月食とは何が起きている状態なのか
月食とは、太陽・地球・月がほぼ一直線に並び、月が地球の影に入る現象です。
位置関係を簡単に表すと、次のようになります。
太陽 →→→ 地球 ==== 地球の影 ==== 月
地球の影には、太陽光がほぼ完全に遮られる本影と、その外側にできる薄い半影があります。月がどこまで影に入るかによって、月食の種類が変わります。
| 種類 | 月の位置 | 主な見え方 |
|---|---|---|
| 半影月食 | 月が半影に入る | 月全体がわずかに暗くなる |
| 部分月食 | 月の一部が本影に入る | 月が端から欠けたように見える |
| 皆既月食 | 月全体が本影に入る | 月全体が暗くなり、赤銅色に見える |
「皆既」という言葉から、月が完全に見えなくなると考える人もいます。しかし実際には、地球の大気を通った弱い光が本影の内側まで届くため、暗い赤色の月が残ります。
本影と半影の違いや月食の進み方は、国立天文台の月食の解説でも確認できます。
2. 月が赤く見える仕組みを図で理解する
太陽光は白く見えますが、実際には赤・橙・黄・緑・青・紫など、さまざまな波長の光が混ざっています。
太陽光が地球の大気に入ると、空気の分子によって光が散乱されます。このとき、波長の短い青や紫の光ほど散らばりやすく、波長の長い赤やオレンジの光ほど比較的まっすぐ進みやすい性質があります。
この現象がレイリー散乱です。散乱の強さは、おおよそ次の関係で表されます。
散乱の強さ ∝ 1 / 波長^4
波長が短くなるほど、散乱が急激に強くなることを意味します。
皆既中に月へ届く光の流れを整理すると、次のようになります。
太陽光
↓
地球の大気に入る
├─ 青・紫の光
│ ↓
│ 強く散乱される
│ 月まで届きにくい
│
└─ 赤・オレンジの光
↓
大気を通り抜ける
↓
屈折して進路が曲がる
↓
地球の本影へ回り込む
↓
月面を赤く照らす
つまり、月自体が赤い光を発しているわけではありません。地球の大気によって赤い光が選び出され、その光を月面が反射しているのです。
3. 地球の影なのに月が真っ黒にならない理由
地球本体は、月へ向かう太陽光を遮ります。地球に大気が存在しなければ、本影に入った月は現在よりはるかに暗くなり、肉眼ではほとんど見えなくなると考えられます。
ところが、地球は空気の層に包まれています。
大気の縁を通った光は、空気の密度が変化する場所で屈折します。屈折した光の一部は、地球本体の後ろ側に回り込み、本来は太陽光が届かない本影の内部へ進みます。
地球に大気がない場合
太陽 → 地球 █████ 本影
月は非常に暗い
地球に大気がある場合
太陽 → 大気で屈折 )████ 本影
\ 赤い光
↓
月
月の上から地球を見たと仮定すると、地球が太陽を隠し、その周囲を赤く光る細い大気の輪が囲んでいるように見えると考えられます。
その赤い輪から届く光が、月の表面をぼんやりと照らします。
赤い月は、光が完全になくなった姿ではありません。
地球の大気を通って弱められた光に照らされている姿です。
4. 夕焼けが赤い理由と同じなのか
皆既中の月が赤く見える仕組みは、夕焼けが赤く見える仕組みと基本的に同じです。
昼間、太陽が高い位置にあるときは、太陽光が大気中を通る距離が比較的短くなります。青い光が空全体へ散乱されるため、空は青く見えます。
夕方になると、太陽光は地平線近くの厚い大気を長い距離にわたって通過します。その間に青い光の多くが散乱され、赤やオレンジの光が観察者まで届きやすくなります。
月食でも、太陽光は地球の縁にある厚い大気を通過します。そのため、地球の影の中にある月へ届く光も赤系統になります。
NASAはこの状態を、地球上で起きている朝焼けと夕焼けの光が、月を照らしているようなものと説明しています。NASAの月食に関する解説では、月食の種類や軌道の関係も図とともに紹介されています。
5. 普通の満月が赤い場合との違い
月食が起きていなくても、月の出や月の入りの頃には、満月が赤やオレンジに見えることがあります。
どちらも地球の大気が関係していますが、光が大気を通るタイミングが異なります。
| 現象 | 大気を通る光 | 赤く見える理由 |
|---|---|---|
| 夕焼け | 太陽から観察者へ届く光 | 青い光が散乱され、赤い光が残る |
| 地平線近くの赤い月 | 月から観察者へ届く光 | 厚い大気を通る間に青い光が散乱される |
| 皆既中の赤い月 | 太陽から月へ届く光 | 地球大気を通った赤い光が月を照らす |
地平線近くの月が赤い場合、月自体は地球の影に入っていません。月から地上の観察者へ届く途中で、月の光が赤く見えるようになります。
一方、月食中は、月を照らす前の太陽光が地球大気を通ります。
見分けるときは、月が欠けているか、通常の満月と同じ明るさか、月食の予報が出ているかを確認するとよいでしょう。
6. 赤銅色や暗い赤色など毎回違って見える理由
皆既中の月は、毎回まったく同じ色になるわけではありません。
明るいオレンジ色になることもあれば、赤褐色、暗いレンガ色、黒に近い色になることもあります。主な違いを生むのは、次のような条件です。
- 地球大気に含まれるちりやエアロゾルの量
- 地球周縁部にある雲の分布
- 大規模な火山噴火で放出された微粒子
- 月が本影の中心付近を通るか、端を通るか
- 観察地点での月の高度
- 空気の透明度や雲の状態
大気中の微粒子が多い場合、赤い光まで弱められ、月が非常に暗く見えることがあります。反対に大気が比較的澄んでいる場合は、明るい銅色やオレンジ色になる傾向があります。
月食中の明るさを表す目安として、ダンジョン・スケールがあります。
| L値 | 月の色と明るさの目安 |
|---|---|
| 0 | 非常に暗く、月がほとんど見えない |
| 1 | 暗い灰色や褐色で、模様が分かりにくい |
| 2 | 深い赤色やさび色で、本影の中心が暗い |
| 3 | レンガ色で、本影の縁が比較的明るい |
| 4 | 明るい銅色やオレンジ色に見える |
NASAのダンジョン・スケールの説明では、明るさを0から4までの5段階に分類しています。
ただし、肉眼による評価には個人差があります。L値だけで大気中の微粒子や汚染の程度を正確に測定できるわけではありません。
7. ブラッドムーンとは?不吉という噂は本当なのか
ブラッドムーンは、赤く見える皆既中の月を表す一般的な呼び名です。「血の月」と訳されるため、不吉な印象を持たれることがあります。
しかし、ブラッドムーンは正式な天文学上の分類名ではありません。科学的には、月が地球の本影に完全に入る皆既月食です。
正式な月食の分類は、次の3種類です。
- 半影月食
- 部分月食
- 皆既月食
赤い月と災害、地震、病気、社会変動などを結びつける科学的根拠は確認されていません。
赤色は、大気中で起きる光の散乱と屈折によって説明できます。見た目の珍しさや歴史的な伝承と、自然科学上の原因は分けて考える必要があります。
「見てはいけない」という言い伝えにも、科学的な根拠はありません。月食は肉眼で安全に観察できます。
また、「スーパーブラッドムーン」という言葉もあります。これは、地球に比較的近い位置にある満月と、皆既月食が重なった場合に使われる通称です。
ただし、「スーパームーン」には天文学で統一された厳密な境界があるわけではありません。月の距離と月食の種類は、別々の要素として理解するのが正確です。
8. なぜ満月のたびに月食が起こらないのか
月食は満月の時期にしか起こりません。それでも、約29.5日ごとに訪れる満月で、毎回月食が起こるわけではありません。
理由は、月が地球を回る軌道が、地球が太陽を回る軌道面に対して約5度傾いているからです。
多くの満月では、月は地球の影の少し上か下を通過します。
通常の満月
月 ○
\
地球 ======== 地球の影
月食が起こる満月
地球 ==== ○ ====
月
月の軌道が基準となる面を横切る場所は「交点」と呼ばれます。
満月が交点の近くを通り、太陽・地球・月が十分正確に並んだ場合にだけ、月食が起こります。
月食が発生しても、世界中のすべての地域から見られるわけではありません。月食の時刻に月が地平線より下にある場所では観察できず、月の出や月の入りの途中で一部だけ見える地域もあります。
9. 次に日本で見られる皆既月食はいつなのか
2026年8月時点で、日本全国から皆既の段階を観察できる次の機会は、2029年1月1日と予報されています。
元日に起こるため、年越しの深夜から明け方にかけて観察することになります。冬の夜間は気温が下がりやすいため、防寒と安全な観察場所の確保が重要です。
その前の2028年7月7日には、日本の多くの地域で部分月食を見られる予定です。ただし、地域によって月の入りまでに見られる範囲が異なる可能性があります。
今後の月食の予定や各段階の時刻は、国立天文台の月食一覧で確認できます。
月食の日時は計算によってかなり正確に予測できますが、実際に見られるかどうかは天候に左右されます。観察日の数日前から、月の方角、月の高度、雲量を確認しておくことが大切です。
10. 月食を安全に観察する方法
月食は、太陽を直接見る日食とは異なり、肉眼で安全に観察できます。日食用の観察グラスや特殊なフィルターは必要ありません。
双眼鏡や望遠鏡がなくても、月の欠け方や色の変化を十分に楽しめます。双眼鏡があると、月の海やクレーター付近の色の違いが分かりやすくなります。
観察前には、次の点を確認しましょう。
- 部分食と皆既食の開始・終了時刻
- 月が見える方角
- 月の高度
- 雲量や降水予報
- 建物や山に遮られない場所
- 夜間でも安全に立ち入れる場所
- 防寒具や虫よけ
- 足元を照らすライト
月食の途中経過を記録する場合は、15分から30分ごとに月の形と色を書き留めると、地球の影が移動する様子を理解しやすくなります。
記録項目の例は次のとおりです。
| 記録する項目 | 内容 |
|---|---|
| 時刻 | 観察した時刻 |
| 月の形 | どの方向から欠けているか |
| 色 | オレンジ、赤、赤褐色など |
| 明るさ | 肉眼で模様が見えるか |
| 天候 | 晴れ、薄雲、雲が多いなど |
| 使用機材 | 肉眼、双眼鏡、望遠鏡など |
11. スマートフォンで撮影するときのコツ
スマートフォンで月を撮影すると、月が小さな白い点になったり、明るく写りすぎたりすることがあります。
通常の満月は非常に明るいため、自動露出では月面の模様が白く飛びやすくなります。画面上の月をタップし、可能であれば露出を下げて撮影します。
一方、皆既の段階では、通常の満月より月が大幅に暗くなります。欠け始めと同じ設定のままでは、月がほとんど写らないことがあります。
撮影時の基本は次のとおりです。
- 三脚や固定具を使う
- タイマー撮影で手ぶれを防ぐ
- デジタルズームを使いすぎない
- 皆既前後で露出を調整する
- 夜景モードが必ず適するとは限らない
- 月だけでなく建物や風景も一緒に入れる
望遠鏡の接眼部にスマートフォンを近づけて撮影する方法もありますが、月を画面中央に合わせるには練習が必要です。
観察当日に初めて試すのではなく、通常の満月で固定方法や露出調整を試しておくと失敗を減らせます。
12. よくある質問
Q. 月食中の月は燃えているのですか?
燃えているわけではありません。月面が急に高温になったり、赤く発光したりしているのではなく、地球の大気を通った赤い太陽光を反射しています。
Q. 月が赤いほど大気が汚れているのですか?
月の暗さには、大気中のちりや火山性エアロゾルも関係します。ただし、雲の分布、月が本影のどこを通るか、観察地点の空の状態も影響します。赤さだけで大気汚染の程度を判断することはできません。
Q. 部分月食でも赤く見えますか?
本影に入った部分が赤褐色に見える場合があります。ただし、影に入っていない部分が明るいため、皆既中ほど赤色が目立たないことがあります。
Q. 世界中で同時に観察できますか?
月食そのものは世界共通の時刻に進みますが、時計の表示はタイムゾーンによって異なります。また、その時間に月が地平線より上にある地域でなければ観察できません。
Q. 望遠鏡がなくても見えますか?
肉眼で見られます。月の色や欠け方も肉眼で確認できます。双眼鏡を使うと、月面の模様や色のむらをより詳しく観察できます。
Q. 月食と日食は何が違いますか?
日食は月の影が地球に落ち、地上から太陽の一部または全部が隠れて見える現象です。月食は、月が地球の影に入る現象です。
日食では太陽を直接見ないための専用器具が必要ですが、月食は肉眼で安全に見られます。
Q. ブラッドムーンを見ると目に悪いですか?
目に悪いという科学的根拠はありません。通常の満月を見る場合と同様に、特別な保護具なしで観察できます。
13. 赤い月は地球の大気がつくる光景
皆既中の月は、地球の影に完全に入っても姿を消しません。地球の大気を通過した太陽光のうち、赤やオレンジの光が屈折して本影へ回り込み、月面を照らすからです。
重要な点を整理すると、次のようになります。
- 月食は、月が地球の影に入る現象
- 青い光は大気中で散乱されやすい
- 赤い光は比較的大気を通過しやすい
- 通過した赤い光が屈折して月まで届く
- 夕焼けが赤いのと基本的に同じ原理
- 月の色は大気中のちりや雲によって変わる
- ブラッドムーンは一般的な通称
- 災害や異変の前兆ではない
- 日食と違い、肉眼で安全に観察できる
- 日本全国で見られる次の皆既月食は2029年1月1日の予定
次の観測機会には、赤い色だけでなく、欠け始めから皆既、再び満月へ戻るまでの変化にも注目してみてください。
月面をゆっくり移動する丸い影を見ると、地球が球体であることや、地球の大気が光の色を変えていることを、自分の目で確かめられます。