ボウリングのピンはなぜ10本?「9ピン禁止の法律逃れ」は本当なのか
結論からいうと、現在のボウリングでピンが10本なのは、10本でなければゲームが成立しないからではありません。複数あった形式のうち、10本を使う「テンピンボウリング」が米国で広く普及し、19世紀末にルールや用具が統一されたためです。
「賭博と結びついた9ピンが法律で禁止され、規制を逃れるために1本追加した」という有名な話には、実際の歴史を土台にした部分があります。しかし、10ピンを示す記録は規制以前にも残っており、この出来事だけを起源と断定することはできません。
| よくある説明 | 確認できること | 判断 |
|---|---|---|
| 9ピンが法律で禁止された | 1841年、米国コネティカット州で9ピンレーンが規制された | 事実 |
| 規制を逃れるため10本目を追加した | そのような説明は広く伝わっている | 可能性はあるが断定できない |
| 10ピンは1841年に初めて生まれた | 1820年の新聞に「Ten Pin Alley」の広告がある | 誤り |
| ボウリングは必ず10本で行う | 9ピンや5ピンなどの形式も存在する | 誤り |
1. 現在主流のボウリングはピンを10本使う
日本のボウリング場で一般に行われているのは、英語で tenpin bowling と呼ばれる形式です。
現在の競技規則では、10本のピンをレーンの奥に並べ、1投目で全部倒すとストライク、2投目までに全部倒すとスペアになります。USBCの公式競技規則でも、アメリカンテンピンは10フレームで構成され、ストライクは最初の投球で10本すべてを倒すことと定義されています。
ピンは手前から1本、2本、3本、4本の順に配置されます。
投球方向
1
2 3
4 5 6
7 8 9 10
列ごとの本数を足すと、1+2+3+4=10です。
ただし、この計算によってピンの本数が10本に決まったわけではありません。先に10本を使う形式が広まり、それに合わせて現在の配置や番号が標準化されました。
2. 昔のボウリングは本数も並べ方も統一されていなかった
ボールを転がして棒やピンを倒す遊びは、ヨーロッパを中心にさまざまな形で発達しました。地域や時代によって、標的の本数、形、配置、投げる距離などが異なり、初めから一つの競技として統一されていたわけではありません。
笹川スポーツ財団のボウリング解説でも、中世ヨーロッパではピンの形や数、配置がさまざまに変化し、現在日本で普及している10ピン方式は米国で発展したと説明されています。
代表的な形式を比べると、本数が必ず10本ではないことが分かります。
| 形式 | ピンの本数 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| テンピン | 10本 | 4列の三角形に配置する現在の主流形式 |
| ナインピン | 9本 | ひし形に並べる形式が代表的 |
| ファイブピン | 5本 | カナダで発達し、ピンごとに得点が異なる |
| ダックピン | 10本 | 小型のボールと短く太いピンを使う |
| キャンドルピン | 10本 | 細長いピンを使い、倒れたピンを残して続ける |
特に9本を使うナインピンは、ドイツ語圏の「ケーゲル」などから発達し、ヨーロッパから北米へ渡った移民によって広められたと考えられています。
つまり、ボウリングの基本は「10本のピンを倒すこと」ではなく、ボールを転がして並べられた標的を倒すことです。そのなかで、10本を使う形式が現在の主流になりました。
3. 「9ピン禁止を逃れるため10本にした」説とは
ピンが10本になった理由として、よく次のような説明が語られます。
- 9ピンボウリングが賭博の対象になった
- 治安や風紀を理由に9ピン場が禁止された
- 禁止対象が9本だったため、1本追加した
- 10ピンボウリングが誕生した
この話の土台となった規制は実在します。
国際ボウリング博物館・殿堂の歴史解説によると、1841年に米国コネティカット州で、9ピン用のレーンを維持することを違法とする法律が制定されました。賭博との結びつきが規制の背景にあったと考えられています。
したがって、「9ピンの施設が法律で規制された」という部分まで作り話ではありません。規制を避けるため、9本ではない形式を採用した人や施設があった可能性も十分にあります。
一方で、次の部分には注意が必要です。
1841年の法律をきっかけに、誰かが世界で初めて10本目を追加し、現在のテンピンを発明したと証明する資料は確認されていません。
USBCの公式史も、ヨーロッパの9ピンから米国の10ピンへ、いつ、なぜ1本が追加されたのかは現在も明確ではないとしています。
「法律で9本が禁止されたので10本にした」という説明は分かりやすいものの、複数の地域と時代にまたがる成立過程を、一つの出来事にまとめた逸話と考える方が安全です。
4. 1841年より前にも10ピンの記録がある
法律逃れ説だけをテンピンの起源としにくい最大の理由は、1841年の規制より前に10ピンの記録が残っていることです。
米国インディアナ州ビンセンズで発行された1820年の新聞『Indiana Centinel』には、店の利用客向け設備として「Ball and Ten Pin Alley」を設けたという広告が掲載されています。
インディアナ州の歴史新聞アーカイブに残る1820年7月29日付の紙面でも、この広告の文面を確認できます。
1841年のコネティカット州法より20年以上前に「Ten Pin Alley」という言葉が使われていたことから、少なくとも次のことが分かります。
- 10本を使う形式は1841年以前から存在していた
- コネティカット州の規制がテンピンそのものを初めて生み出したとはいえない
- 地域によって9ピンと10ピンが並存していた可能性がある
ただし、1820年の広告だけで「テンピンが最初に生まれた場所」や「発明者」まで特定できるわけではありません。
歴史上の記録は、ある時点ですでにその言葉や施設が存在したことを示しますが、それより前に存在しなかったことまでは証明しません。
9ピン規制はテンピンの利用や普及を後押しした可能性がありますが、10本という形式そのものは規制以前から存在していました。
5. 10本を標準ルールとして定着させた規則統一
19世紀後半の米国では、テンピンボウリングが各地に広がっていました。しかし、レーンの寸法、ボールの重さ、ピンの形、得点方法などは地域によって異なっていました。
条件がばらばらでは、離れた地域の選手同士が公平に記録を比べられません。ある町では認められる投球や用具が、別の町では認められないという問題も起こります。
転機となったのが、1895年9月9日にニューヨークで設立されたAmerican Bowling Congress、略称ABCです。
USBCが公開するボウリング史によると、設立時の会議で規則が採択され、その後、約1,000部が各地のボウリング団体へ郵送されました。共通ルールを広く配布したことが、新しい競技団体への信頼と普及につながったとされています。
統一が進められたのは、ピンの本数だけではありません。
- レーンやピンの配置
- ボールやピンの規格
- 投球と得点のルール
- 大会やリーグの運営方法
- 競技記録を公認する条件
共通基準があれば、どの地域でもほぼ同じ条件でプレーできます。競技会を開きやすくなり、用具メーカーも同じ規格に合わせて製品を作れるようになります。
現在のピンが10本なのは、10本が数学的に唯一の正解だったからではありません。すでに普及していたテンピンが組織化され、再現可能な競技として標準化されたからです。
6. 10本のピンはなぜ三角形に並んでいるのか
10本のピンは、正面から見ると末広がりの三角形に並んでいます。
USBCの用具規格では、隣り合うピンの中心間隔を12インチ、約30.5センチとして配置します。USBCの用具規格書には、ピンデッキやピンスポットを含む競技設備の基準が細かく定められています。
三角形の配置には、現在のゲーム上、次のような特徴があります。
先頭から後方へ衝突が伝わる
最前列の1番ピンにボールが当たると、ピン同士の衝突が左右や後方へ広がります。ボールが10本すべてに直接当たらなくても、倒れたピンが別のピンを倒す「ピンアクション」が起こります。
当たる位置によって結果が変わる
1番ピンの真正面に当てる場合と、1番ピンと3番ピンの間へ角度をつけて入れる場合では、力の伝わり方が異なります。同じ10本を狙っていても、ボールの軌道や回転によって残るピンが変わります。
左右対称で位置を番号化しやすい
中央を軸にほぼ左右対称で、各ピンに1番から10番までの番号を割り当てられます。「7番ピン」「10番ピン」「7-10スプリット」のように、残った位置を共通の言葉で表現できます。
ただし、歴史上の人々がこうした効果を計算し、最適な形として三角形を採用したと証明されているわけではありません。
三角形に決まった歴史的な理由と、三角形が現在の競技にもたらしている効果は分けて考える必要があります。
7. 誤解されやすいポイント
10本目を追加した発明者がいる
テンピンを発明した人物として広く認められている一人の名前はありません。
10本を使う形式は複数の記録に登場し、地域ごとに異なる遊び方が変化するなかで定着したと考えられます。
9ピンは法律で禁止されて消滅した
9ピンの施設が規制された地域はありましたが、9ピンという競技が世界中から消えたわけではありません。現在もナインピンボウリングは競技として行われています。
10本だから1ゲームも10フレームになった
現在のテンピンは10本のピンを使い、1ゲームは10フレームです。しかし、二つの「10」が同じ理由で決まったと示す明確な根拠はありません。
ルールとして組み合わされているだけで、ピンの本数から必然的にフレーム数が決まるわけではありません。
1本、2本、3本、4本と並べるため10本になった
4列の三角形を作ると合計10本になりますが、これも結果を説明しているにすぎません。
「4列に並べることを先に決めたので、計算上10本になった」と確認できるわけではありません。
8. よくある質問
Q. ボウリングのピンは全部で何本ですか?
日本の一般的なボウリング場で行われるテンピンボウリングでは10本です。1番から10番まで番号が付けられています。
Q. ピンは何列に並んでいますか?
手前から1本、2本、3本、4本の4列です。正面から見ると三角形になります。
Q. 9ピン禁止を逃れるために1本増やした話は嘘ですか?
完全な作り話とはいえません。1841年にコネティカット州で9ピンレーンが規制された事実があり、規制回避がテンピンの普及を促した可能性はあります。
ただし、10ピンは規制以前から記録されているため、この法律によって初めて誕生したとは断定できません。
Q. 10本目を追加した人は分かっていますか?
特定されていません。現在のテンピンは、一人の発明というより、複数の地域で行われていた遊びが変化し、標準化されたものと考えられます。
Q. 「ボウリング」と「ボーリング」はどちらが正しいですか?
ピンを倒すスポーツは一般に「ボウリング」と表記します。
「ボーリング」は、地質調査や井戸工事などで穴を掘る作業を指す場合に使われることが多いため、スポーツと区別するなら「ボウリング」が適切です。
9. まとめ
ボウリングのピンが10本なのは、10本でなければゲームとして成立しないからではありません。
地域ごとに異なる本数やルールが存在するなかで、10本を使うテンピンが米国で普及し、1895年以降に競技規則や用具が統一されたことで、現在の標準として定着しました。
9ピンが賭博との関係から規制された歴史はあります。しかし、10ピンを示す記録は1841年の規制より前にも残っています。
最も正確な整理は次のとおりです。
9ピン禁止はテンピンの普及に影響した可能性があるものの、ピンが10本になった唯一の理由や起源とは断定できない。
次にボウリング場へ行ったときは、手前から1本、2本、3本、4本と並ぶピンを見てみてください。何気なく並んでいる10本は、長い歴史のなかでさまざまな形式が競い合い、共通ルールとして残った配置です。