達成目標理論とは?熟達目標・遂行目標の違いと、成績が上がる勉強の目標設定
1. 勉強の成果は「どんな目標で学ぶか」で変わる
「次のテストで良い点を取りたい」「TOEICで目標スコアを超えたい」「資格試験に合格したい」。こうした目標は、勉強を始めるきっかけになります。
ただし、点数や合格だけを見ていると、勉強法が不安定になることがあります。模試の結果に落ち込む、苦手分野を避ける、間違い直しが浅くなる、教材を増やして安心しようとする。こうした行動は、努力不足だけではなく、目標の置き方によって起こることがあります。
教育心理学では、学習者が「何を達成したいと思っているか」が、勉強中の行動・感情・考え方に影響すると考えます。たとえば、同じ英単語を覚える場合でも、目標によって行動は変わります。
| 目標の置き方 | 勉強中の行動 | 起こりやすい結果 |
|---|---|---|
| 良い点を取りたい | 頻出問題や得点源を優先する | 短期のスコア対策に向く |
| 内容を理解したい | 例文・文法・背景まで確認する | 応用力や長期記憶につながりやすい |
| 悪い点を取りたくない | ミスを恐れて苦手分野を避ける | 不安や先延ばしが増えやすい |
| 前より上達したい | 間違いを分析して次に直す | 継続と改善につながりやすい |
結論から言えば、成績を上げたい人ほど、点数目標だけでなく、理解・上達・復習の目標を持つことが重要です。
点数で方向を決め、理解で毎日の行動を決める。
これが、受験・TOEIC・資格勉強で使いやすい目標設定の基本です。
2. 学習者の目標をどう見る理論なのか
達成目標理論は、学習者が「能力をどう示したいか」「何を成功と考えるか」によって、学習行動が変わると考える理論です。
代表的には、次の2つの目標がよく使われます。
| 種類 | 別名 | 重視するもの | 典型的な考え方 |
|---|---|---|---|
| 熟達目標 | 習得目標、マスタリー目標 | 理解・成長・上達 | 前よりできるようになりたい |
| 遂行目標 | 成績目標、パフォーマンス目標 | 評価・点数・他者比較 | 良い点を取りたい、できる人だと思われたい |
DweckとLeggettは、目標が適応的・非適応的な行動パターンに関わるという社会認知的モデルを提示しました。詳しくは、ERICに掲載されているA Social-Cognitive Approach to Motivation and Personalityで概要を確認できます。
ここで大切なのは、熟達目標が正しく、遂行目標が間違いという話ではないことです。
受験や資格試験には合否があります。TOEICにはスコアがあります。学校の成績や模試の偏差値も、進路選択に関わります。したがって、遂行目標は現実的に必要です。
問題は、点数や評価だけを見て、日々の勉強が「失敗を避ける行動」に偏ってしまうことです。
3. 熟達目標・遂行目標の違い
熟達目標と遂行目標は、勉強の優先順位を変えます。
| 観点 | 熟達目標が強い人 | 遂行目標が強い人 |
|---|---|---|
| 成功の基準 | 前より理解できたか | 良い点を取れたか |
| ミスの受け止め方 | 改善点が見つかった | 能力が低い証拠に見える |
| 苦手分野への反応 | できるようにしたい | 失敗しそうなら避けたい |
| 復習の深さ | なぜ間違えたかを考える | 正解・不正解だけ確認しやすい |
| 向いている学習 | 基礎理解、応用、長期学習 | 模試、過去問、短期対策 |
Amesは、教室環境において「能力」よりも「努力・理解・改善」に焦点を当てる構造が、熟達志向を促しやすいと論じています。概要はClassrooms: Goals, Structures, and Student Motivationで確認できます。
勉強で成果を出すには、両方を組み合わせる必要があります。
遂行目標:どこまで到達したいかを決める
熟達目標:今日、何をできるようにするかを決める
たとえば「TOEICで700点を取る」は遂行目標です。これだけでは今日の行動が曖昧です。
そこで、熟達目標に変換します。
| 遂行目標 | 熟達目標への変換 |
|---|---|
| TOEICで700点を取る | Part 5の品詞問題を根拠つきで解けるようにする |
| 英検2級に合格する | 長文で根拠文を探せるようにする |
| 定期テストで90点を取る | 間違えた計算手順を説明できるようにする |
| 資格試験に合格する | 選択肢が正しい理由・誤りの理由を説明できるようにする |
点数を目指すことは大切です。ただし、毎日の勉強は「できるようにする行動」まで落とし込む必要があります。
4. 成績を上げたい人と理解したい人で勉強法が変わる理由
成績を上げたい人は、試験で点になる行動を優先します。理解したい人は、知識のつながりや納得感を重視します。
どちらにも強みがあります。
| タイプ | 強み | 弱み |
|---|---|---|
| 成績重視 | 期限に強い、得点源を絞れる、模試を活用しやすい | 点数が下がると不安定になりやすい |
| 理解重視 | 応用力がつきやすい、長期記憶に残りやすい | 試験形式への対応が遅れることがある |
たとえば、英語長文を解くときに、成績重視の人は「何分で何問正解できたか」を見ます。理解重視の人は「なぜその答えになるのか」「本文のどこが根拠か」を見ます。
本番で必要なのは、どちらか一方ではありません。
制限時間内に解く力と、根拠を持って解く力の両方が必要です。
そのため、勉強計画は次のように分けると安定します。
| 学習段階 | 優先する目標 | やること |
|---|---|---|
| 基礎固め | 熟達目標 | 理解、例題、用語確認 |
| 演習期 | 熟達目標+遂行目標 | 問題演習、ミス分析 |
| 直前期 | 遂行目標 | 時間配分、過去問、得点戦略 |
| 復習日 | 熟達目標 | 間違いの原因分類、再テスト |
点数を上げたいなら、点数だけを見るのではなく、点数に変わる行動を増やすことが重要です。
5. 4タイプで見る勉強中の行動パターン
ElliotとMcGregorは、熟達・遂行に「接近」と「回避」を組み合わせた2×2の枠組みを提案しました。概要はPubMedのA 2 X 2 Achievement Goal Frameworkで確認できます。
| タイプ | 目標の例 | 学習への影響 |
|---|---|---|
| 熟達接近 | もっと理解したい、できるようになりたい | 深い学習、挑戦、粘り強さにつながりやすい |
| 遂行接近 | 高得点を取りたい、上位に入りたい | 集中力や短期対策につながりやすい |
| 熟達回避 | 忘れたくない、理解不足を残したくない | 丁寧な復習に向くが、完璧主義に注意 |
| 遂行回避 | 悪い点を取りたくない、失敗したくない | 不安、先延ばし、苦手回避につながりやすい |
特に注意したいのは、遂行回避です。
「落ちたくない」「恥をかきたくない」「できない人だと思われたくない」という気持ちは自然です。しかし、この気持ちが強くなりすぎると、学習者はミスから学ぶよりも、ミスを隠す方向に動きやすくなります。
試験勉強では、ミスをゼロにすることよりも、本番前にミスを発見して直すことが大切です。
6. 点数目標だけだと起きやすい失敗
点数目標は必要です。ただし、点数だけを追うと次のような失敗が起こりやすくなります。
| 起こりやすい失敗 | 原因 | 修正方法 |
|---|---|---|
| 模試の点数でやる気が落ちる | 点数を能力の証明として見ている | 点数を弱点リストとして使う |
| できる問題ばかり解く | 間違えるのが怖い | 苦手問題を短時間だけ入れる |
| 復習が浅くなる | 正解数だけ見ている | 間違いの原因を分類する |
| 教材を増やしすぎる | 不安を消したい | 1〜2冊に絞って周回する |
| 勉強時間だけを記録する | 行動量を成果と混同している | 何ができるようになったかを書く |
特に、模試や過去問の使い方は重要です。
悪い使い方は、点数だけを見て終わることです。良い使い方は、間違いを次の4つに分けることです。
| ミスの種類 | 次の行動 |
|---|---|
| 知識不足 | 用語・公式・単語を覚え直す |
| 理解不足 | 解説を読み、なぜそうなるか説明する |
| 読み違い | 問題文の条件に線を引く |
| 時間不足 | 解く順番と捨て問を決める |
点数は結果です。復習で見るべきなのは、結果そのものではなく、次に変えられる行動です。
7. なぜ今、勉強の目標設定が重要なのか
現代の学習では、スコア、偏差値、ランキング、学習時間、連続学習日数など、多くの数字が見えるようになりました。数字があると進捗を確認しやすくなります。一方で、数字に振り回されると、学習の目的が「理解すること」ではなく「不安を消すこと」になってしまいます。
OECDのPISA 2022 Results: Japanでは、日本の15歳は数学・読解・科学でOECD平均を上回りました。数学でレベル2以上に達した生徒は日本が88%、OECD平均が69%。科学では日本が92%、OECD平均が76%です。
一方で、同じ調査では、社会経済的に有利な上位25%の生徒が、不利な下位25%の生徒を数学で81点上回ったことも示されています。学習成果は、本人の努力だけでなく、環境・支援・学習習慣にも左右されます。
さらに、Morisanoらの研究では、学業上の困難を抱える大学生85人を対象に、オンラインの目標設定プログラムを行った群で学業成績への前向きな効果が報告されています。米国教育省系のWhat Works Clearinghouseでも、この研究はランダム化比較試験として基準を満たし、少なくとも1つの有意な正の効果があると整理されています。概要はWhat Works Clearinghouseのレビューで確認できます。
つまり、目標設定は気合いの問題ではありません。何を目指し、どう振り返り、次の行動に変えるかが、学習成果に関わります。
8. TOEIC・資格・受験に使う目標設定の方法
実際の勉強では、目標を3層に分けると使いやすくなります。
| 目標の種類 | 例 | 役割 |
|---|---|---|
| 結果目標 | TOEIC700点、英検2級合格、定期テスト90点 | 方向を決める |
| 行動目標 | 毎日20分、過去問を10問、英単語を30個 | 実行を安定させる |
| 熟達目標 | 品詞問題を根拠つきで解く、長文の根拠文を探す | 実力を積み上げる |
多くの人は、結果目標だけを立てます。
TOEICで700点を取りたい。
志望校に合格したい。
資格試験に受かりたい。
これらは大切ですが、今日の行動に変換しにくい目標です。そこで、次のように分解します。
| 結果目標 | 行動目標 | 熟達目標 |
|---|---|---|
| TOEIC700点 | 平日20分、休日60分学習する | Part 5の品詞問題を根拠つきで解く |
| 英検2級合格 | 長文を週3題解く | 本文中の根拠文を見つける |
| 簿記3級合格 | 仕訳問題を毎日10問解く | 取引を借方・貸方で説明できる |
| 定期テスト90点 | 学校ワークを3周する | 間違えた問題の解き方を説明できる |
おすすめは、1週間ごとに次の形で書くことです。
結果目標:3か月後にTOEIC700点
行動目標:平日20分、休日60分学習する
熟達目標:Part 5の品詞問題を根拠つきで解けるようにする
確認方法:週末に10問解き、間違いの理由を1行で書く
この形にすると、点数を追いながらも、毎日の勉強が理解と改善に向かいます。
9. 学習記録と振り返りで目標を調整する
目標は、立てただけでは機能しません。学習後に振り返り、次の行動を変えることで意味を持ちます。
振り返りでは、次の3つを書くだけで十分です。
| 書くこと | 例 |
|---|---|
| 今日やったこと | Part 5を20問解いた |
| できるようになったこと | 名詞を選ぶ問題で空所前後を見る意識ができた |
| 次に直すこと | 副詞と形容詞の見分けを復習する |
学習を記録しながら進めたい人は、完全無料で利用できるDailyDropsのような学習サービスを選択肢に入れてもよいでしょう。DailyDropsは、学習行動がユーザーに還元される共益型プラットフォームです。
ただし、重要なのはアプリを使うこと自体ではありません。記録を見て、次の学習を変えることです。
学習時間を記録するだけで終わらせない。
何ができるようになったか、次に何を直すかまで書く。
この習慣があると、点数が一時的に伸びない時期でも、学習の方向を見失いにくくなります。
10. 目標設定で誤解されやすい点
成績やスコアを目標にすること自体は悪くありません。問題は、点数を自分の価値そのものと結びつけることです。
| 誤解 | 正しい考え方 |
|---|---|
| 点数目標は悪い | 点数目標は必要。ただし熟達目標とセットにする |
| 理解重視なら点数を見なくてよい | 試験では時間配分と形式対策も必要 |
| 目標は高いほどよい | 高すぎる目標は行動に変換しにくい |
| ミスが多いのは才能がないから | ミスは改善点を示すデータ |
| 毎日完璧に計画通り進めるべき | 週単位で調整すればよい |
特に、子どもや学習者に声をかけるときは注意が必要です。
「何点だった?」だけを聞くと、点数が自分の価値のように感じられることがあります。代わりに、次のように聞くと、熟達目標につながりやすくなります。
- どこが前よりできるようになった?
- どのミスを次に直す?
- 解き方を説明できる問題はどれ?
- 次の1週間で何をできるようにする?
点数を見ないのではなく、点数を次の学習に変えることが大切です。
11. よくある質問
Q. 熟達目標と遂行目標はどちらがよいですか?
どちらか一方ではなく、組み合わせるのが現実的です。点数・合格・順位は方向を決めるために必要です。ただし、毎日の勉強では「何をできるようにするか」という熟達目標がないと、復習や改善が浅くなりやすくなります。
Q. 成績目標を持つと逆効果になりますか?
成績目標そのものは逆効果ではありません。問題は「悪い点を取りたくない」という回避の気持ちが強くなりすぎることです。高得点を目指す場合でも、ミスを責めるのではなく、ミスを分類して次の行動に変えることが重要です。
Q. 目標設定理論との違いは何ですか?
目標設定理論は、目標の具体性や難易度が行動にどう影響するかを扱うことが多い理論です。一方、達成目標の考え方は、学習者が「理解を深めたいのか」「能力を示したいのか」といった目標の質に注目します。勉強では、両方を組み合わせると使いやすくなります。
Q. TOEICの目標スコアは遂行目標ですか?
はい。TOEIC700点、800点のような目標は遂行目標です。ただし、それだけでは今日の勉強内容が決まりません。「Part 5の品詞問題を根拠つきで解く」「Part 3で設問を先読みできるようにする」など、熟達目標に変換することが大切です。
Q. 理解重視だけでは受験に弱いですか?
理解重視は大切ですが、受験では時間制限と出題形式があります。理解を深める時期と、制限時間内に解く時期を分ける必要があります。基礎固めでは熟達目標を重視し、直前期には遂行目標を強めるとバランスが取りやすくなります。
Q. 毎日目標を立てるべきですか?
毎日細かく立てるのが負担なら、週単位で十分です。おすすめは、週の結果目標を1つ、行動目標を1つ、熟達目標を1つ決める方法です。毎日の振り返りは「今日できるようになったこと」と「次に直すこと」だけでかまいません。
12. 参考にした主な資料
- Dweck & Leggett, A Social-Cognitive Approach to Motivation and Personality
- Ames, Classrooms: Goals, Structures, and Student Motivation
- Elliot & McGregor, A 2 X 2 Achievement Goal Framework
- Morisano et al., Setting, Elaborating, and Reflecting on Personal Goals Improves Academic Performance
- OECD, PISA 2022 Results: Japan
13. まとめ:点数を追う人ほど、理解の目標を持とう
成績を上げたい、合格したい、スコアを伸ばしたい。そう思うことは自然です。試験には結果があり、結果目標は学習の方向を決めるために役立ちます。
しかし、点数だけを見ていると、ミスが怖くなり、苦手分野を避け、復習が浅くなります。反対に、理解だけを重視して試験形式を無視すると、本番で得点につながらないことがあります。
最も実用的なのは、次の考え方です。
結果目標で方向を決める。
行動目標で継続する。
熟達目標で実力を積み上げる。
次に勉強するときは、「何点取りたいか」だけでなく、次の1文を書いてみてください。
今日の勉強で、何を説明できるようにするか。
この問いがあるだけで、問題演習、復習、学習記録の意味が変わります。成績を上げたい人ほど、理解を深める目標を持つ。そこから、点数に振り回されない勉強が始まります。