犬の子宮蓄膿症の初期症状は?多飲多尿・膿が出ない閉鎖型と手術費用
未避妊のメス犬に、元気消失、食欲低下、多飲多尿、嘔吐、腹部の張り、陰部からの膿や血が見られた場合は、原則として当日中に動物病院へ連絡してください。
子宮蓄膿症は、治療が遅れると敗血症、腎機能障害、子宮破裂、腹膜炎につながることがある緊急疾患です。膿が外へ出ない「閉鎖型」もあるため、分泌物がないから安心とは限りません。
立てない、呼びかけへの反応が弱い、呼吸が速い、歯ぐきが白い、何度も吐くといった状態なら、診療時間外でも救急病院へ連絡してください。
1. 症状別に見る緊急受診の目安
| 愛犬の状態 | 受診の目安 |
|---|---|
| 未避妊で元気や食欲が落ちている | 当日中に動物病院へ相談 |
| 陰部から膿、血膿、悪臭のある液が出る | 元気でも当日中に受診 |
| 膿は出ないが、多飲多尿や腹部膨満がある | 閉鎖型を疑い早急に受診 |
| 繰り返し吐き、水も保てない | 救急受診を検討 |
| 立てない、反応が鈍い、呼吸が速い | 夜間でも救急病院へ連絡 |
| 避妊済みなのに膿や発情のような症状がある | 子宮断端なども含めて受診 |
人用の解熱鎮痛薬や、以前処方された抗生物質を自己判断で与えてはいけません。犬に中毒を起こす薬があるほか、症状が一時的に隠れて診断が遅れる可能性があります。
2. 子宮蓄膿症とはどのような病気か
主に避妊手術を受けていないメス犬の子宮内で細菌が増殖し、膿がたまる病気です。
発情後は、黄体ホルモンとも呼ばれるプロゲステロンの影響で子宮内膜が厚くなり、分泌液が増えます。子宮の収縮も弱まるため、子宮内に入り込んだ細菌が増殖しやすくなります。代表的な原因菌は大腸菌です。
発情後のホルモン変化
↓
子宮内膜が厚くなり、分泌物が増える
↓
子宮内で細菌が増殖する
↓
膿や細菌由来の物質がたまる
↓
敗血症・臓器障害・子宮破裂の危険
感染が全身へ広がると、腎臓や肝臓の障害、血液凝固の異常、ショックを起こす場合があります。
Merck Veterinary Manualの獣医療者向け解説でも、子宮内膜の変化、細菌感染、ホルモンの関与が説明されています。
3. 未避妊の中高齢犬だけに起こるわけではない
中高齢の未避妊犬で多く見られますが、若い犬や出産経験のある犬にも発症します。
スウェーデンの保険加入犬20万頭以上を対象にした研究では、未避妊のメス犬の約23〜24%が10歳までに子宮蓄膿症を経験すると推定されました。日本の犬へそのまま当てはめられる数字ではなく、犬種差もありますが、決して珍しい病気ではないことを示しています。
犬種と発症リスクを調べた研究では、犬種によって発症率が異なることも報告されています。
発症は、発情出血が終わってから数週間後、一般には1〜2カ月前後に多く見られます。最終発情日を記録しておくと、診察時の重要な手掛かりになります。
4. 初期に見られやすい症状
初期には、明確な痛みや大量の膿がなく、「少し元気がない」「食べる量が減った」程度のことがあります。加齢や暑さの影響と決めつけないことが大切です。
- 元気がなく、寝ている時間が増えた
- 食欲が落ちた、好物を残す
- 水を飲む量が増えた
- 尿の回数や量が増えた
- 嘔吐や下痢がある
- 陰部を頻繁に舐める
- 黄白色、茶色、赤褐色の分泌物が出る
- 分泌物から強いにおいがする
- お腹が張って見える
- 腹部を触られるのを嫌がる
- 発熱、震え、呼吸の速さがある
特に知られている症状が多飲多尿です。感染や細菌がつくる物質の影響によって、腎臓が尿を濃くする働きが低下し、尿量が増えて、その分だけ水を多く飲むことがあります。
飲水量を測れる場合は記録すると役立ちますが、測定のために受診を翌日以降へ延ばしてはいけません。
5. 膿が出る開放型と出ない閉鎖型
子宮の出口である子宮頸管の状態によって、大きく2つに分けられます。
| 種類 | 子宮頸管 | 主な症状 | 誤解しやすい点 |
|---|---|---|---|
| 開放型 | 開いている | 陰部から膿や血膿が出る | 膿が出れば治ると思いやすい |
| 閉鎖型 | 閉じている | 分泌物が出ず、腹部が張ることがある | 膿がないため見逃しやすい |
開放型でも、外へ膿が排出されているだけで、感染源は子宮内に残っています。分泌物が減ったり止まったりしても、自然に治ったとは判断できません。
閉鎖型では膿が子宮内に閉じ込められ、子宮が大きく膨らむことがあります。犬を対象にした開放型と閉鎖型の重症度を比較した研究では、閉鎖型の犬の77%、開放型の犬の51%が敗血症と判定されました。
膿が見えない状態で、元気消失、多飲多尿、嘔吐、腹部膨満がある場合ほど注意が必要です。
6. 発情出血や膀胱炎との違い
陰部から血や液体が出る原因には、発情、腟炎、膀胱炎、尿路結石、腫瘍、流産、出産後の子宮炎などもあります。家庭で見た目だけから区別するのは困難です。
| 状態 | 見られることがある特徴 | 注意点 |
|---|---|---|
| 発情 | 外陰部の腫れ、血性分泌物 | 発情後に再び出血した場合は異常を疑う |
| 膀胱炎 | 頻尿、少量ずつ排尿、血尿 | 陰部の分泌物と区別しにくい |
| 腟炎 | 陰部を舐める、分泌物 | 子宮の病気が隠れていないか確認が必要 |
| 子宮蓄膿症 | 元気消失、多飲多尿、膿、嘔吐 | 閉鎖型では膿が出ない |
「発情の出血だろう」「水を飲めているから大丈夫」「膿が出たので中身が抜けた」と判断して様子を見るのは危険です。
7. 動物病院で行われる検査
診察では、避妊手術の有無、最終発情日、出産歴、ホルモン剤の使用歴、症状が始まった時期などを確認します。
| 検査 | 主に確認する内容 |
|---|---|
| 身体検査 | 体温、脱水、腹部膨満、痛み、粘膜の色 |
| 血球検査 | 白血球の増減、貧血、炎症の程度 |
| 血液生化学検査 | 腎臓、肝臓、血糖、電解質 |
| 尿検査 | 尿の濃さ、感染、腎機能への影響 |
| 超音波検査 | 子宮の拡張、壁の厚さ、内部の液体 |
| X線検査 | 拡張した子宮や腹部臓器の状態 |
| 凝固系検査 | 血栓や出血に関する異常 |
超音波検査では、液体がたまって拡張した子宮を確認できます。ただし、妊娠や子宮内に粘液がたまる病気でも似た画像になることがあるため、血液検査や症状と合わせて判断します。
8. 基本治療は卵巣と子宮を摘出する手術
多くの症例で第一選択となるのは、感染した子宮と卵巣を摘出する卵巣子宮摘出術です。
健康な犬の避妊手術と術式は似ていますが、子宮蓄膿症では子宮が膿で大きくなり、組織がもろくなっていることがあります。脱水、敗血症、腎機能障害などを伴う場合もあり、通常の避妊手術より麻酔と手術のリスクが高くなります。
一般的な治療の流れは次のとおりです。
- 静脈点滴で脱水や血圧を改善する
- 抗菌薬、鎮痛薬、制吐薬などを投与する
- 血液検査や画像検査で重症度を評価する
- 全身状態を可能な範囲で安定させる
- 卵巣と感染した子宮を摘出する
- 術後も点滴や疼痛管理を続ける
米国獣医外科専門医協会の解説でも、迅速な治療が必要な救急疾患とされ、状態を安定させた後の手術が基本治療とされています。
9. 抗生物質だけで治療するのが難しい理由
抗生物質を投与しても、膿がたまった子宮そのものは残ります。一時的に元気が戻ったり、分泌物が減ったりしても、感染源が残って再び悪化する可能性があります。
繁殖能力を残す必要があり、全身状態が良好で、子宮頸管が開いているなどの条件を満たす場合には、ホルモンに作用する薬と抗菌薬による内科治療が検討されることがあります。
ただし、内科治療には次の問題があります。
- 効果が出るまで時間がかかる
- 嘔吐、下痢、腹痛などの副作用がある
- 治療に反応しない場合がある
- 子宮破裂や腹膜炎の危険がある
- 次の発情後に再発する可能性がある
- 閉鎖型や全身状態の悪い犬には適さない
「高齢だから手術を避けたい」という理由だけで決められる治療ではありません。治療しない危険性と、麻酔や手術の危険性を比較して判断する必要があります。
10. 手術費用の目安
日本の動物医療は自由診療であり、病院、地域、犬の体重、診療時間、検査内容、重症度、入院日数によって費用が大きく異なります。
価格.com保険が紹介する保険金請求データでは、8歳のミニチュア・ダックスフンドが手術1回と3泊4日の入院を受け、合計13万7,000円となった事例があります。
| 診療項目 | 事例の金額 |
|---|---|
| 診察 | 1,500円 |
| 入院3泊4日 | 14,000円 |
| 検査 | 28,000円 |
| 全身麻酔 | 15,000円 |
| 手術 | 60,000円 |
| 点滴・注射・薬など | 18,500円 |
| 合計 | 137,000円 |
これは平均額ではなく、一つの診療事例です。夜間救急、大型犬、子宮破裂、腹膜炎、輸血、集中治療、長期入院などが必要になれば、さらに高額になる可能性があります。
見積もりでは、検査・麻酔・手術・入院を含む概算総額、追加治療が必要になった場合の費用、ペット保険の対応などを確認します。費用が心配な場合も、受診自体を遅らせず、最初に病院へ事情を伝えてください。
11. 手術後の入院と自宅での注意点
入院期間は全身状態によって異なります。回復が順調なら比較的短期間で退院できることがありますが、敗血症、腎機能障害、子宮破裂などがあれば長期化します。
退院後は、次の点に注意します。
- 処方薬を指示された回数と期間で使用する
- 傷口を舐めさせない
- 散歩は排泄中心の短時間にする
- 階段、ジャンプ、激しい遊びを避ける
- 傷口の赤み、腫れ、出血、膿を確認する
- 食欲、飲水、排尿、嘔吐の有無を記録する
食欲や元気が再び低下する、何度も吐く、傷口が開く、腹部が膨れる、呼吸が速い、尿が出ないといった変化があれば、予定された再診日を待たずに病院へ連絡してください。
12. 手術後の生存率と予後
早期に診断され、適切な点滴と手術を受けた場合、良好な回復が期待できます。
犬405頭を対象とした治療成績の研究では、卵巣子宮摘出術を受けた犬の退院時生存率は97%、405頭中394頭でした。生存した犬の44%は2泊以上入院しています。
ただし、この数字は「どの犬でも97%助かる」という意味ではありません。次の状態があると予後は悪化します。
- 子宮破裂や腹膜炎
- 重度の敗血症やショック
- 腎臓や肝臓の機能障害
- 血液凝固の異常
- 重度の脱水や低血圧
- 心臓病などの持病
年齢だけで治療の可否を決めず、検査結果と全身状態を基に判断することが重要です。
13. 避妊済みの犬でも起こることはあるのか
卵巣と子宮が適切に摘出されていれば、通常の子宮蓄膿症は起こりません。
ただし、まれに卵巣組織や子宮の一部が残り、ホルモンの影響と感染が重なることで、子宮断端蓄膿症が起こる場合があります。
避妊済みの犬に次の症状が見られたら受診してください。
- 発情のような外陰部の腫れや出血
- オス犬を受け入れるような行動
- 陰部から膿や悪臭のある液が出る
- 多飲多尿、食欲低下、嘔吐
避妊手術を受けた時期や術式が分かる診療記録があれば、受診時に伝えます。
14. 最も確実な予防は避妊手術
繁殖予定がない犬では、健康な時期に卵巣と子宮を摘出することで、通常の子宮蓄膿症を予防できます。
感染によって子宮が大きく腫れてから行う緊急手術より、健康な状態で行う予定手術の方が、一般に麻酔や術後管理を行いやすくなります。
ただし、避妊手術の適切な時期は、犬種、体格、成長、持病、生活環境などによって異なります。すべての犬に同じ月齢が最適とは限らないため、かかりつけの獣医師と相談してください。
避妊しない場合は、次の情報を記録しておくと早期発見に役立ちます。
- 発情が始まった日と終わった日
- 出血や分泌物の色、量、におい
- 飲水量と尿量
- 食欲と体重
- 交配、妊娠、出産歴
- ホルモン剤の使用歴
15. よくある質問
Q. 膿が出ていますが、元気なら翌日まで待てますか?
元気に見えても開放型の可能性があります。短時間で全身状態が悪化することがあるため、当日中に動物病院へ連絡してください。
Q. 膿が出なければ違う病気ですか?
閉鎖型では膿が外へ出ません。未避妊の犬に多飲多尿、元気消失、嘔吐、腹部膨満があれば、分泌物がなくても早急な受診が必要です。
Q. 発情後、どのくらいで発症しますか?
発情出血が終わってから数週間から1〜2カ月ほどで見られることが多いとされています。ただし、時期だけで否定はできません。
Q. 高齢犬でも手術できますか?
年齢だけでは決まりません。心臓、腎臓、肝臓、血圧、感染の程度などを評価し、治療しない危険性と手術の危険性を比較します。
Q. 手術後に再発しますか?
卵巣と感染した子宮が適切に摘出されれば、通常は再発しません。卵巣組織や子宮断端が残っている場合は例外です。
Q. 病院へ行く前に食事を止めるべきですか?
手術や麻酔が必要になる可能性がありますが、病状によって対応が異なります。食事や水を与える前に、受診先へ電話して指示を受けてください。
16. 発情後の小さな変化を見逃さない
子宮蓄膿症は、陰部から膿が出る分かりやすい症例だけではありません。膿が出ない閉鎖型では、多飲多尿、食欲低下、元気消失だけが最初の変化になることがあります。
重要な点は次のとおりです。
- 未避妊のメス犬が発情後に体調を崩したら早めに相談する
- 膿が出なくても閉鎖型は否定できない
- 基本治療は状態を安定させた後の卵巣子宮摘出術
- 抗生物質だけでは感染源が残る可能性がある
- 治療費は重症度や入院日数で大きく変わる
- 早期治療ほど良好な回復を期待しやすい
様子を見る時間が長くなるほど、敗血症や臓器障害によって治療が難しくなる可能性があります。家庭で病名を確定しようとせず、避妊の有無、最終発情日、飲水・排尿の変化、分泌物の状態を動物病院へ伝えてください。