テニス選手はなぜ打つときに声を出す?球速への効果・相手への影響と反則ルール
結論から言えば、テニスの打球時に出る声には、強く息を吐く動作とスイングのタイミングを合わせ、力を出しやすくする働きがあると考えられています。大学選手を対象にした実験では、発声した条件でサーブやフォアハンドの速度が約4〜5%高くなった例があります。
ただし、声を出せば誰でも速いボールを打てるわけではありません。効果には個人差があり、大声そのものよりも、呼気と動作が同期していることが重要です。
通常の打球に伴う短い掛け声や呼吸音は認められますが、相手が打とうとする瞬間まで声が続くなど、プレーを妨げたと判断されれば反則になる可能性があります。
| 疑問 | 結論 |
|---|---|
| なぜ声を出す? | 呼気とスイングを合わせ、力を出すタイミングを整えるため |
| 球速は上がる? | 小規模研究では平均約3.8〜4.9%高くなった例がある |
| 相手にも影響する? | 反応やボールの軌道予測に影響する可能性がある |
| 反則になる? | 通常の掛け声は認められるが、相手を妨害すれば失点になり得る |
声は目的ではなく、呼吸と動作をそろえるための手段です。「大きく叫ぶほど有利」と単純に考えることはできません。
1. テニスの「グラント」とは
ボールを打つ瞬間に選手が発する「アッ」「ウッ」「ハッ」といった声は、英語で grunt(グラント)、発声する行為は grunting(グランティング) と呼ばれます。
日本語では、うなり声、掛け声、叫び声などと表現されますが、必ずしも相手を威圧する目的で叫んでいるとは限りません。
強く息を吐いたときに声帯が振動し、自然に音が出る選手もいます。一方、打球のタイミングやラリーのリズムを整えるため、意識的に発声を習慣化している選手もいます。
テイクバック
↓
脚・骨盤・体幹を使ってスイング
↓
インパクト付近で強く息を吐く
↓
呼気が声帯を通り、音になる
観戦者には特徴的なうめき声として聞こえても、選手にとっては呼吸とスイングが一体になったルーティンであることも少なくありません。
2. 声を出すことと息を吐くことは同じ?
声を出すことと息を吐くことは、厳密には同じではありません。
声を出さずに強く息を吐くこともでき、強い呼気に発声が加わったものがグラントです。
| 呼吸・発声 | 特徴 |
|---|---|
| 息を止める | 力みやすく、呼吸のリズムが乱れることがある |
| 無声音で吐く | 「フッ」と短く吐き、音量を抑えられる |
| 声を伴って吐く | 「ハッ」などの音が出て、タイミングを意識しやすい |
| 長く叫ぶ | 相手の打球時まで続くと妨害になる可能性がある |
2016年に大学テニス選手を対象として、発声、強制呼気、吸気、息を止めて力む方法を比較した研究では、発声だけでなく、より静かな強制呼気も力発揮に利用できる可能性が示されました。
呼吸条件とフォアハンドの力を比較した研究では、静かに強く吐く方法も発声の代わりになり得るとされています。
一般のプレーヤーがプロ選手の大声をまねる必要はありません。まず意識したいのは、インパクトで息を止めず、短く吐くことです。
3. なぜ声を出すと力を発揮しやすいのか
テニスの打球は、腕だけで行う動作ではありません。
地面を踏んだ力を、脚、骨盤、体幹、肩、腕、ラケットへと順番に伝えます。この運動連鎖が適切なタイミングでつながるほど、腕を必要以上に力ませなくてもラケットを加速させやすくなります。
発声や強い呼気には、次のような働きが考えられます。
-
体幹を安定させる
腹部周辺の筋肉が働き、回転する上半身の土台を保ちやすくなります。 -
力を出す瞬間をそろえる
「打点で吐く」という合図が、脚からラケットまでの動きを同期させる助けになります。 -
息を止めにくくする
緊張した場面や長いラリーでも、呼吸の停止による過度な力みを防ぎやすくなります。 -
一定のリズムを作る
毎回ほぼ同じタイミングで発声することで、スイングのテンポを保ちやすくなります。
重い荷物を持ち上げるとき、自然に「よいしょ」と声が出ることがあります。声が筋力を直接生み出すのではなく、力を加える瞬間と呼吸がそろった結果として音が出ています。テニスのグラントにも似た側面があります。
ただし、心理的な高揚、体幹の安定、筋活動の同期のうち、どの要素がどの程度関係するのかは完全には分かっていません。
研究で比較的はっきり示されているのは、発声条件で打球速度や一部の筋活動が高くなったことです。その理由を一つの仕組みだけで説明することはできません。
4. グラントで球速は本当に上がる?
発声と打球速度を比較した複数の研究では、声を出した条件で速度や力発揮がわずかに高くなった結果が報告されています。
| 研究 | 対象・方法 | 主な結果 |
|---|---|---|
| Callisonら、2014年 | 男女各5人、計10人が発声あり・なしで打球 | 発声ありで打球速度が平均3.8%上昇 |
| O'Connellら、2014年 | 大学選手32人がサーブとフォアハンドを実施 | 発声ありで速度が約4.9%上昇 |
| O'Connellら、2016年 | 呼吸条件を変えて模擬フォアハンドを実施 | 発声だけでなく強い呼気も利用できる可能性を示した |
10人を対象にした打球速度と酸素消費量の研究では、声を出した条件で速度が平均3.8%高くなりました。
一方、酸素摂取量、心拍数、主観的なきつさについては、発声の有無による有意な差が確認されませんでした。少なくともこの実験では、声を出したことで打球速度が上がっても、測定された身体的負担が明確に増えたわけではありません。
男女16人ずつ、計32人の大学選手を対象にしたサーブとフォアハンドの研究でも、発声した条件で両ショットの速度と等尺性筋力が有意に高くなりました。外腹斜筋や大胸筋の活動も増加しています。
仮に時速160kmのショットが4%速くなれば、単純計算では約166.4kmです。
160 × 1.04 = 166.4
数kmの差でも、高いレベルの試合では相手が準備できる時間を短くする可能性があります。
ただし、速度が上がってもコントロールが落ちれば得点にはつながりません。実験で確認された平均的な速度上昇を、そのまま試合の勝率や得点率へ置き換えることもできません。
研究から読み取れるのは、発声に慣れた選手では、打球に同期した声や強い呼気が速度と力発揮を少し高める可能性があるという範囲です。
5. 相手の反応や球筋の予測にも影響する?
テニス選手は、相手のフォームやラケット面だけでなく、ボールがラケットに当たる音も利用していると考えられます。
打球音には、インパクトのタイミングや強さを推測する手掛かりが含まれるからです。グラントが打球音に重なると、次の二つの影響が起こる可能性があります。
| 影響の仕組み | 内容 |
|---|---|
| マスキング・注意の分散 | 声が打球音を覆う、または注意を別の音へ向ける |
| 多感覚の統合 | 声の大きさを打球の強さに関する情報として取り込む |
2010年の実験では、33人の参加者がテニスの打球映像を見て、ボールが左右どちらへ飛ぶかを判断しました。
インパクト時に短いホワイトノイズを加えた条件では、音がない条件より反応が遅く、誤答も増えました。打球時のノイズと方向判断を調べた実験は、余分な音が知覚を妨げる可能性を示しています。
ただし、使われたのは実際の選手の声ではなくホワイトノイズであり、参加者の多くもプロ選手ではありません。実戦でも同じ程度の不利益が生じると断定することはできません。
2019年の研究では、テニス経験者が声の大きさを調整したラリー映像を見て、ボールの落下地点を予測しました。
大きなグラントほどボールが奥へ飛ぶと判断される傾向がありましたが、落下地点の予測誤差そのものは増えませんでした。声量とボールの軌道予測を比較した研究は、声が単に注意をそらすだけでなく、打球の強さを判断する情報として取り込まれる可能性を示しています。
したがって、「声が大きいほど相手は必ず反応できなくなる」とはいえません。声の長さや音量、会場音、相手の経験、ショットの種類によって影響は変わります。
6. 大きな声を出すと反則になる?
打球時に声が出ただけで、直ちに反則になるわけではありません。
テニスには「何デシベル以上なら失点」という一律の音量基準はなく、相手のプレーを妨げたかどうかが判断の中心になります。
日本テニス協会のロービングアンパイアQ&Aでは、返球時の「えい!」という掛け声や「はっ!」という呼吸音は認められると説明されています。
一方、プレー中の声がアウトなどのコールと誤解され、妨害が確認された場合は、声を出した選手の失点となることがあります。
2026年ATP公式ルールブックでも、相手への意図的な妨害があれば妨げられた選手がポイントを得て、意図しない妨害なら原則としてポイントをやり直すという基本ルールが示されています。
| 状況 | 判断の目安 |
|---|---|
| 自分のインパクトで短く声が出る | 通常は認められる |
| 毎回ほぼ同じタイミングで発声する | 習慣的な呼吸音と判断されやすい |
| 声が長く、相手のインパクトまで続く | 妨害と判断される可能性が高まる |
| 相手が打つ直前に突然叫ぶ | 意図的な妨害になり得る |
| ウイナーだと思い「カモン」と叫ぶが、相手はまだ打てる | 妨害と判断されれば失点になり得る |
| 声がアウトのコールに聞こえ、相手がプレーを止める | 状況により声を出した側の失点になり得る |
重要なのは声の大きさだけではなく、発声したタイミング、長さ、普段の打球動作との一貫性、相手への実際の影響です。
7. セルフジャッジで相手の声が気になるとき
審判が付かない試合では、相手の声が気になっても、自分だけの判断でラリーを止めないほうが安全です。
通常の掛け声をアウトコールと勘違いして止まった場合、止めた側の失点になることがあります。
対応は次の順番が基本です。
- 返球できる間はプレーを続ける
- ポイントが終わってから、どの声がどのタイミングで気になったかを伝える
- ロービングアンパイアや大会レフェリーがいれば判断を求める
- 相手の声質ではなく、プレーへの具体的な影響を説明する
単に「声がうるさい」と伝えるだけでは、状況を判断しにくくなります。
「声がボールの到達後まで続き、自分が打つ瞬間と重なった」「アウトというコールに聞こえてプレーを止めた」など、タイミングと影響を具体的に伝えることが大切です。
大会によって採用する規程や運用が異なる場合もあるため、最終的には大会責任者の判断に従います。
8. 一般の選手も声を出したほうがよい?
プロ選手の叫び声をそのまままねる必要はありません。一般のプレーヤーが試すなら、音量ではなく呼吸のタイミングを整えることから始めます。
- ミニラリーで、インパクト時に短く「フッ」と吐く
- 声を大きくせず、打点と呼気が合っているか確認する
- 球速だけでなく、コントロールや再現性も比べる
- 相手の打球時まで声を引き延ばさない
- 喉が痛むほど叫ばない
確認したいのは「声が出たか」ではなく、次のような変化です。
- 息を止めずに振り切れるか
- 肩や腕の過度な力みが減るか
- 打点が安定するか
- 長いラリーでも同じリズムを保てるか
- 速度を上げてもコート内へ収まるか
発声によってフォームが崩れる人や集中しにくくなる人は、無理に続ける必要はありません。静かに息を吐く方法でも、呼吸と動作を合わせる練習はできます。
9. 誤解されやすいポイント
「声を出せば誰でも球速が5%上がる」わけではない
研究で示された数値は、限られた人数の大学選手などを対象とした平均です。発声に慣れていない人が突然叫ぶと、呼吸やスイングのタイミングが崩れることもあります。
「声が大きい選手ほど強い」とは限らない
音量は声帯の使い方、声の高さ、口の開き方によっても変わります。聞こえる声の大きさを、そのまま筋力や打球速度として比較することはできません。
「相手に影響する発声はすべて不正」ではない
足音、スイング音、フォーム、視線も相手が利用する情報です。通常の打球動作に伴う声と、相手が打つ瞬間を狙った叫びは区別する必要があります。
「声を出さない選手は呼吸が間違っている」わけではない
音をほとんど出さず、適切に息を吐ける選手もいます。反対に、大きな声が出ていても、呼吸やフォームが適切とは限りません。
10. よくある質問
Q. グラントは意識して出しているのですか?
選手によって異なります。呼吸法やリズム作りとして意識的に始め、その後に習慣化した人もいれば、全力で打った結果として自然に音が出る人もいます。
Q. 声を出すと本当に球速が上がりますか?
小規模な研究では、発声ありの条件で打球速度が平均約3.8〜4.9%高くなった例があります。ただし、全員に同じ効果が出るわけではなく、速度が上がっても精度が落ちれば実戦上の利点とは限りません。
Q. うめき声が大きいと反則ですか?
音量だけで自動的に反則にはなりません。通常の打球に伴う短い声は認められますが、相手の打球時まで続く声や、相手が打つ直前の叫びが妨害と判断されれば失点になる可能性があります。
Q. 相手の声がうるさいときはどうすればよいですか?
プレーできる状態なら勝手にラリーを止めず、ポイント終了後に審判や大会責任者へ伝えます。「大きい」だけでなく、声が自分の打球時に重なった、コールと誤解したなど、具体的な状況を説明します。
11. まとめ
テニスのグラントは、単なる気合いの演出ではありません。インパクトで強く息を吐き、体幹の安定、筋活動、スイングのタイミングをそろえる動作の一部と考えられます。
大学選手などを対象にした研究では、発声した条件でサーブやフォアハンドの速度が約4〜5%高くなった例があります。ただし、対象人数は限られており、誰にでも同じ効果があるとはいえません。
相手側についても、声が反応や軌道予測へ影響する可能性はありますが、影響の大きさや仕組みには未解明な部分が残っています。
ルール上、通常の打球時の掛け声や呼吸音は原則として認められます。問題になるのは、相手のプレーを妨げるタイミングや長さで発声した場合です。
実際に試すなら、大声を出すことよりも、インパクトで短く自然に息を吐き、速度と精度の両方を確認することが大切です。自分の動きを助けながら、相手の打球を妨げない発声が適切な使い方といえるでしょう。